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小さき花-第3章~11

2021-09-15 14:46:32 | 小さき花
 アグネス童貞となったあなたの着衣式が近づいてきました。叔母や姉達は私がその日式に与ることが出来ないから、そのような話しを聞かせると嘆くであろうと思い、私の前ではわざとこの話しを避けるようにしました。しかし私は心の中に「天主様は必ずこの日ポリナに逢わせてくださる」という事を深く信じておりました。なぜならば憐れみ深き聖主キリストは、ポリナが最早私の病気の事を知って大いに心配しておったから、この愉快な日に私の顔を見ることが出来なければさぞ辛い事であろうと思し召され、必ず私がその式に与ることが出来るよう、取り計らってくださるに相違ない」と思ったからであります。ところが果たしてその当日、私は幸いにも美しく純白な被いを受け、、純白な修道服を着ている清きポリナを眺める事が出来、その笑顔を観ることが出来、なおその膝の上に抱かれて愛撫を受けることが出来ました。実にこの日は長く鬱陶しく陰気であった空が太陽の光線を浴びたように私の病気中最も愉快な一日でありました。しかしこの一日、いや一時間が早く過ぎ去ったので、私は馬車に乗せられて家に帰りますと、さほど疲れておりませんのに、すぐに寝かされました。そして翌日からはまた頭が痛くなり、発熱がひどく、急に悪い容態となり、医師はとても治らないと申しました。
 
 私はこの奇妙な病気のありさまをどういう風に描いたら良いか惑います。この病気の間少しも思わぬ事や考えたことのない事を言ったり、望まぬ事や嫌いなことでも、妙に強いられるようになり、いつも人事不省に見えておったが、しかし片時も本心を失いません。また度々数時間身体が痺れ、その時少しも身動き出来ませんが、側で談話する声はいかに細くてもありありと聞こえました。その上悪魔はいろいろの方法を以って私が怖れるようにと努めましたから、私の横たわっている寝台も深い淵に取り囲まれているように見え、鍵の釘も黒く見苦しい指のようにみえるので、いつも私は驚き叫んでおりました。ある日も父が傍で静かに私を見ておりましたが、父の手にあった帽子が、何か妙に恐ろしい形に変わってしまいましたので、私はひどく恐怖を抱きました。ところが父は私の驚く様子を見て、涙を流しながら黙って部屋を出ました。
 
 
読んでくださってありがとうございます。yui