白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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井山天元、防衛!

2016年12月12日 22時57分43秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。
明日は明日は有楽町囲碁センターで指導碁を行います。
ご都合の合う方は、ぜひお越しください。

また、本日はこども棋聖戦決勝をご紹介する予定でしたが、延期します。
重大な棋戦がある事を忘れていました。

さて、本日は第42期天元戦第4局が行われました。
結果は井山裕太天元一力遼七段に白番中押し勝ちを収めました。
これでシリーズは井山天元の3勝1敗となり、天元防衛が決まりました。
それでは振り返っていきましょう。
なお、この対局は幽玄の間にて、三谷哲也七段の解説付きで中継されました。



1図(実戦黒29)
黒が右辺の黒模様をどう広げるか、興味深い場面でした。
そこで打たれた黒1のノゾキは、予想外です。
白としては当然反発したくなります。





2図(実戦白30~白36)
白1と反発されれば、白7までは想定できます。
これで黒がバラバラになり困りそう、というのが普通の棋士の感覚です。





3図(実戦黒37~黒41)
しかし、一力七段はその先まで見通していました。
黒5まで、左辺の黒は全部捨てて、下辺を目一杯に構える作戦です!
左辺の黒の取られ方が酷いので、普通のプロの常識にはない打ち方です。
流石一力七段、天才的な発想です。

さて、白としては下辺から右辺にかけて広がる黒模様を、どう制限するべきでしょうか?
私なら、もし下辺に打つとすれば白Aが限度だと考えます。





4図(実戦白42~黒43)
ところが、井山天元は白1!
極限まで踏み込んで行きました!
それに対して、一力七段が黒2と退路を断ったのは当然でしょう。
白、大丈夫なのでしょうか?





5図(実戦白44~白50)
白7までとなりましたが、黒Aとかぶせられると白が苦しい、というのが大方のプロの第一印象でしょう。
しかし、意外と一筋縄では行かないのかもしれません。





6図(変化図)
黒1に対しては、例えば白2以下の進行が考えられます。
下辺の黒も生きておらず、白Aの逃げ出しも残っています。
この先どうなるのか分かりませんが、簡単に白が取られる感じもしません。

一力七段の想定はこの図ではないかもしれませんが、白を取る事は無理と判断しました。
そこで実戦は・・・。





7図(実戦黒51)
一力七段、何と取られている石を逃げ出しました!
この手の意味は、白Aと取りに来れば黒Bから工作し、黒C周辺に利き筋を作ろうというものでしょう。
下辺白を取りに行く事を前提とした、一種のモタレ攻めです。





8図(実戦白52~黒55)
という訳で、白1と逃げ出しました。
黒も2と左辺と逃げる事ができ、碁はますます複雑になりました。
白3に黒4と、左右分断を図りますが・・・。





9図(実戦白66)
その後白△となって、白は左右連絡、黒は閉じ込められた形に見えました。
ところが・・・。





10図(実戦黒67~黒71)
黒1と、またしても凄い手を繰り出しました!
この手は、黒Aの巨大なコウ材を用意した意味です。
そして黒5と、コウを仕掛けて行きました!




11図(実戦黒79~白86)
その後、黒1のコウ立てを使い、黒はコウに勝つ事に成功しました。
しかし、白4で左下黒を捕獲し、先手を取って白6、8の守りに回っては白が優勢になりました。
こうなってみると、黒は中央でコウに勝った以外、あまり得たものがありません。

しかし、このまま何もせず負けるようでは、一力七段は挑戦者になっていません。
この後黒Aから、必死に戦いを挑みます。





12図(実戦黒103)
黒△まで、黒は左辺で大きく生きて頑張りました。
ただし、ここで白に手番が回って・・・。





13図(実戦白104~白116)
白1も絶好点です。
白13となると、下辺の黒大石が逆に攻められています。





14図(実戦黒117~黒119)
黒1は白の眼を取りつつ、黒Aで左右を繋げる手を残した好手です。
これに対しては白2と、黒△を取って生きれば十分、というのが井山天元の判断でした。
黒3は必死の踏み込みです。





15図(実戦白120~白132)
まず、黒12まで隅で生きました。
その代わり、白13で上辺の白模様が大きくなりましたが・・・。





16図(実戦黒133)
ここで黒1とは、気迫の踏み込み!
取られても文句は言えない位置ですが、ここまで行かないと勝負にならないという事でしょう。

実は白としては、この石を取りに行かなくても形勢有利です。
しかし井山天元、白Aから本気で取りに行きました。
若い挑戦者に対して逃げて勝つのではなく、全力で叩き潰そうという気概を感じます。

この後は下辺黒大石の死活も絡む、際どい勝負に発展しました。
しかし、最後は井山天元が大石を仕留め、激闘に終止符を打ちました。


今期の天元戦は、毎局激しい戦いが繰り広げられました。
結果は井山天元の3勝1敗でしたが、内容は互角に近かったと思います。
できれば第5局を見たかったですが、別の機会を待つ事にしましょう。
2人の勝負は、まだ始まったばかりです。