白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

イベントお知らせ&許ー井山戦紹介

2016年12月29日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。
1/3(火)、横浜の宇宙棋院にて、著書の販売イベントを行います!
内容は、当初はサイン会&トークショーの予定でしたが・・・。
1人で30分も喋るネタが無いので、大盤解説をやる事にしました(笑)。
本でどんな事が学べるのかを、しっかりお伝えしたいと思います。

解説を聞くだけなら無料なので(サロンの入場料は必要)、ご都合の合う方はぜひお越しください。
時間は確か、12時30分頃からだったと思いますが・・・ちょっと自信がありません。
詳しくは宇宙棋院の方へお問い合せください。
年末年始も、元日以外は営業しているそうです。

さて、本日もナショナルチームの強化合宿で行われた、トーナメントの1局を題材にします。
3位決定戦、許家元四段(黒)と井山裕太六冠の対局です!



1図(実戦白50~白52)
井山六冠が、白1、3と左辺に打ち込んだ場面です。
これは単に地を荒らす手ではなく、黒の上下を分断する事で攻めを狙っています。

とはいえ、左辺は元々黒の構えがあった所です。
黒としては怖がっている場合ではなく、むしろ先制攻撃を仕掛けたいですね。
ただし、その方法が難しいのです。
白Aなどと、左右を繋がられてはいけない事ははっきりしていますが・・・。





2図(変化図1-1)
黒1と左右を分断し、白2には黒3!
このように、勢い良く攻めたくなる方が多いでしょう。
しかし、白2、4に石が来て、左上の黒も心配になってきました。





3図(変化図1-2)
そこで、黒1と逃げる事になりますが、白2に対しては一転して黒3などと、下辺の白と繋がらせないよう打たなければいけません。
何だか流れがチグハグですね。
白10となって、黒の方が弱くなってしまいました。





4図(実戦黒53)
実戦は、黒1のツケ!
格好良い手が飛び出しました!

この手は、所謂モタレ攻めです。
左辺の白を直接攻めても上手く行かないので、そのための準備をしようという事です。
ツケという手は強制力が強く、相手としては何か対応すれば自然ですが・・・。





5図(変化図2)
白1と受ければ、黒2からどんどん押して黒8までと、大きく網を張る予定でしょう。
これなら左上の黒が危なくなる心配もなく、左辺白の凌ぎは大変です。
また白Aには黒Bと、黒1子は喜んで捨ててしまいます。
白2子が置き去りになっては、勿論黒良しです。





6図(実戦白54)
そこで、白1と左辺から動きました。
それなら、黒2、4と目一杯の形を作る事ができます。
下辺白への攻めまで視野に入って来ました。

白としても、一方的に攻められては面白くありません。
この後白Aから反撃し、激しい戦いへと突入しました。





7図(実戦黒83)
その後黒1と、要石の黒△を助けた場面です。
まずは白Aの切りが目に付きますね。
しかし白Aには、黒Bあたりに打って来るでしょう。
左辺の白には眼が無く、厳しく攻められる恐れがあります。
そこで実戦は・・・。





8図(実戦白84)
白1と、左上の黒を閉じ込めました!
黒Aと繋がって来れば、それから白Bに打とうというのです。
黒を閉じ込めた事で左辺の白は強くなっており、もう攻められる心配が無くなっています。

これは白にとって最高の図です。
つまり、黒の立場からすれば、絶対に許す訳には行きません。





9図(実戦黒85~黒87)
左上を放置し、黒1と繋ぎました!
白2で左上の黒が危険ですが、黒3でこちらの白と差し違えようというのです!
一方的にやられるよりも差し違えを目指すのは、プロの本能のようなものです。





10図(実戦白88~白94)
白は左上を取っても、下辺を取られては不満と判断しました。
そこで、生きを目指して動き出しました!
左上を取ってこちらも生きようという、欲張りな打ち方です(笑)。

結局、下辺の白はコウになりましたが、コウ替わりで左上の黒が復活する事になりました。
そして、さらにもう1つ大きなコウが発生し、そのコウ替わりで何と左上の白が取られる展開に!
何とも派手な碁でしたが、許四段が見事勝利を収めました。


許四段は今年あまり目立ちませんでしたが、今は色々な碁を模索している最中のように見えます。
余正麒七段一力遼七段との力の差は僅かで、遠からずタイトルに絡んで来るでしょう。

石の下

2016年12月29日 00時28分50秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
ナショナルチームの強化合宿、最終日に行われたトーナメントでは平田智也七段が優勝しました!
練習対局とはいえ、幽玄の間でも中継された真剣勝負です。
井山六冠高尾名人を破った事は、大いに自信になるでしょう。

さて、本日ご紹介するのは、高尾名人と張栩九段の対局です。
これも合宿の中の1局ですが・・・タイトル戦を見ている気分になりますね。
なお、本日はこの対局を含む、8局が幽玄の間で中継されています。
ぜひご覧ください。
また、ソフト上での公開が終わっても、幽玄の間ホームページ上でご覧頂けます。



1図(実戦白28~黒29)
高尾名人の黒番です。
白1と閉じ込めましたが、構わず黒2と先行しました。
左下の黒に対して、厳しい手は無いと見ているからです。





2図(実戦白30~白32)
しかし、白1、3と強襲!
ハネ一本からの置きとは、あまり見た事がありません。
黒Aの傷が残っていますが・・・。





3図(変化図1)
黒1、3と取ると、白4に渡られます。
よく見ると、黒全体の眼が心配です。
死ぬ事はありませんが、惨めに2眼で生きる羽目になります。





4図(実戦黒33~黒35)
そこで実戦は、黒1、3と反撃しました!
白Aなら黒Bから、白△を取って大きく生きるつもりです。





5図(実戦白36~黒39)
白も1と繋いで抵抗しました。
黒2に白3と切って攻め合いです。
黒4には白Aと取り、大きなコウ争いになりました。





6図(実戦黒79)
その後、黒1と繋いでコウは黒が勝ちました。
では左下の白が全部取れたかと言えば、そうではありません。





7図(実戦白80~白86)
白1のツケが好手で白7まで、黒△と白△の攻め合いは白が勝ちです。
勿論白は、コウを仕掛ける前からこの手段を見ていました。





8図(実戦黒87~白88)
白2の後、黒は白のダメを詰めたいのですが、黒Aに打つと自分が当たりになってしまいます。
黒Bから遠回りしなければいけません。





9図(変化図2-1)
遠回りしている間に、黒が先に当たりになります(黒3は4の右)
攻め合いは白勝ちです。
しかし、話はここで終わりません。





10図(変化図2-2)
前図の後、黒1に白2と、黒4子を抜きました。
この白の形を見て、何か気付きませんか?





11図(変化図2-3)
黒1と切って、白が当たりになっているではありませんか!
白Aと取って手数を延ばすしかなく、コウ争いになります。

この黒1のような手筋を、石の下と言います。
石の下に潜んでいて、石が消えた時に盤上に現れる手筋、というニュアンスでしょうか。
抜き跡に打つので、跡切りの手筋とも呼ばれますね。

この石の下の手筋、プロの実戦では滅多に現れません。
想定図の中では時々現れるのですが、どちらかが避けてしまう事が多いのです。
プロの碁の難しい所ですね。





12図(実戦黒89~白92)
実はこの碁も、石の下は幻の手筋になりました。
8図の後黒Aと打たず、黒1と関係の無い所に向かっています。
白も2と大場に向かい、左下に手を入れませんでした。

取れる石を取りに行かないというのは、不思議に思う方が多いでしょう。
勿論、両者が石の下をうっかりしていた訳ではありません。





13図(変化図3-1)
黒1から取りに行くと、例えば白2など、相手をせずに大場に先行して来るでしょう。
黒3(4の右)、5にも、白6などの大場に先行します。





14図(変化図3-2)
黒1、3で白を取り、黒4子も復活しました。
しかし、白4までとなってみるとどうでしょうか。
白に大場を沢山打たれ、右下の黒も攻められる形になっています。
景色がガラリと変わってしまいましたね。

こうなっては、碁は終わりです。
黒地が増えたといっても、沢山手がかかっているので効率が悪いのです。
黒はそれが分かっているので取りに行かず、白も守りませんでした。

このように、プロの碁には中々現れない手筋ですが、実戦で使えたら気持ち良いでしょう。
碁の奥深さを感じる手筋です。