白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

井山七冠誕生!

2016年04月20日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は囲碁界の歴史に残る一日でした。

森ビル杯第54期十段戦挑戦手合五番勝負第4局
(黒番)井山裕太挑戦者-伊田篤史十段

井山挑戦者が163手で中押し勝ち、十段を獲得。
これで棋聖、名人、本因坊、王座、天元、碁聖、十段を全て獲得、史上初の七冠制覇となりました。
井山さんならいつかやるかもとは思っていましたが、やはりとんでもない記録です。

お隣の将棋界では1996年に羽生義治七冠が誕生しています。
それから20年の間に、将棋界全体のレベルは随分上がったそうです。
その間囲碁界も同様にレベルが上がっているはずですから、飛び抜けた存在はなかなか現れないと思っていました。
それだけに今回の七冠達成は偉業というしかありません。

七冠達成の碁については、詳しくは4/25発売の週間碁などでご覧ください。
一応内容について少しだけ触れておきます。



白△と切りました。
白が先に仕掛け、この時点では明らかに白が攻める立場でした(形勢は別問題ですが)。
しかし手順が進み・・・




黒△となった場面です。
逆に黒が攻める立場となり、この後白がなんとか逃げ出すという展開になってしまいました。




黒△となって、黒優勢です。
勝負はまだまだと見られていましたが、実際には動かし難い差だったかもしれません。
この後程無くして黒の勝ちが決まりました。


井山さんは「魅せる碁」が打てる棋士であり、アマの皆さんを大いに楽しませています。
しかし何故これだけ勝てるか、という理由は別にあると考えています。
それは勝負勘です。
まだ26歳の井山さんですが、獲得タイトル数は既に36に達しました。
今タイトル戦に出られそうな棋士では、10歳上の張栩九段が獲得タイトル39と唯一上回っているぐらいです。
それだけの経験があり、体力も考えると誰よりも勝負強いといえるでしょう。
技術的な面だけ考えれば、井山さんも人間ですから1局のうちに何度かはミスもします。
時には序盤や中盤で一見挽回不可能な程の傷を負ってしまうこともあります。
しかしそこで簡単に負けないのが井山さんです。
非勢の状態から決め手を与えず、100手でも200手でも粘ることができます。
そして相手が隙を見せたら一気に勝負に出て逆転してしまいます。
逆に、優勢の碁は決して落としません。
ミスを避けるのは当然の事として、相手が隙を見せたらそこで一気に勝負を決めてしまいます。
優勢の碁は当然のように勝ち、非勢の碁もなんとかしてしまう。
その結果が昨年の41勝10敗という結果です。
井山さんの対局は殆どタイトル戦ですから、驚異的な成績です。
7冠制覇は運も味方したでしょうが、他の棋士よりはっきり実力が上になったと言えるでしょう。

今後の展望ですが、もう1周ぐらい7冠を維持してもおかしくなさそうです。
さすがに井山さんでも少し厳しいとは思いますが・・・2、3割は可能性があると思います。
悪くても5冠は維持するでしょう。
もし井山さんが羽生さんと同等の存在なら、今後20年以上トップに君臨するかもしれません。
となると、井山さんには新たな挑戦の場が必要ですね。
中国や韓国のトップ棋士、アルファ碁、といった存在と戦うのは今をおいてないと思います。
今の井山さんかどれだけ強いのか、ぜひ見てみたいです。
また、井山さんはインタビューで、自分はまだまだ未熟なのでもっと強くなりたいと語っています。
日本最強の井山さんが世界に出てさらに成長したらどうなってしまうのか、わくわくしてきますね。
日本の井山から世界の井山へ、羽ばたいて頂きたいと思います。

幽霊の正体見たり枯れ尾花

2016年04月19日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
明日は十段戦第4局が行われます。
井山七冠誕生か、伊田十段連勝で逆王手をかけるか!?
対局は日本棋院ネット対局幽玄の間で中継されます。
また、市ヶ谷の日本棋院でも大盤解説が行われます。
皆様、ぜひご来場ください。

さて、本日は指導碁が題材です。
今回は4子局です。



白△と受けた場面、黒番です。
どこへ向かいますか?





実戦は白の手に釣られて黒1と受けてしまいました。
白2と入られて右辺の黒が苦しくなっています。
黒3、5と捨てましたが、4子の置碁としては白に随分大きな顔をされています。




今一番弱い石は右辺の黒石です。
よって黒1と守るのが正解です。
白2と来られても、黒3、5と応じていて何事もありません。
白がのんびり1目を取っている間に、さらに黒7などと先行してしまいます。





右下の黒は万が一白△のように完璧に封鎖されたとしても、黒1で中に1眼作って簡単に生きることができます。
既に右下隅にも1眼確保しているので、100%生きています。


2つ目の図で黒1と受けてしまったのは、右下の黒が攻められるという「幽霊」を怖がったのが原因でした。
石の強弱判断の基準として最も重要なものは、眼の有無です。
なんとなく取り囲まれていて心配になる、といった事は皆さんよくあると思います。
しかしそこで慌てずに、眼形があるかどうかを確認する癖をつけて頂きたい所です。
それができるかできないかが有段者と高段者の境目になるでしょう。

鉄人・杉内雅男九段

2016年04月18日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は私の過去の対局をご覧頂きます。
2009年11月26日名人戦予選
白石勇一二段(黒)対杉内雅男九段
当時25歳と89歳です。
杉内先生は普段は普通のお年寄りといった様子なのですが、碁盤の前に座った瞬間に背筋がピンと伸びて碁打ちの姿勢になります。
しかし、流石に89歳ですから当然私が勝つだろうと思っていました。



黒21と一杯に詰め、白22と反撃して戦いが始まりました。




黒1、3の攻めの常套手段に対し、白4、6も戦いの呼吸です。
強気に行くにしても足元はしっかり固めておかなければいけません。
黒13と飛び越して黒は安泰、ここで白がどう守るかという場面で白14が面白いタイミングでした。




白1と渡れば素直ですが、黒2の大場に先行されます。
後から三々に入っても、黒は地を重視した受け方でどうということはありません。




そこで先に三々に入り、黒2以下の受けなら白9の大場に先行してしまいます。
黒10以下と攻めようとしても、白の大石は予め強化されています。




実戦は黒2と攻めの姿勢を打ち出しましたが、そこで白3と渡ってかわします。
隅を大きく生きられてはたまらないので黒4ですが、白5の大場に回ることができました。
意欲的な打ち回しだったと思います。




黒も1の手筋から反撃して黒9までと突き抜いて一段落です。
足早に打ち回されましたが、黒も互角以上に戦える形勢でしょう。
ここまで白石二段も頑張っています。



しかし白1に対応を誤りました。
黒8、14などに問題があり、白17までと鮮やかにサバかれてしまいました。



当然黒1と裂いて行きますが、白2、4と平然と下辺を受けられています。




黒1で攻められると思っていましたが、甘い判断です。
白数子を処分して下辺で稼ぎ、白10。
これで攻めが利かない姿です。




黒1以下の侵略も、白を板の厚みにしては踏み込み不足でした。
もっと厳しく踏み込むか、あるいは広い下辺に入るなどしなければいけません。
白10となってはっきり白優勢です。
この後はチャンスらしいものもなく押し切られてしまいました。白3目半勝ちです。

負けて当然悔しいのですが、この時ばかりは畏敬の念が上回りました。
どれだけの努力を重ねれば、89歳でこれだけの碁が打てるのでしょうか。

あれから6年の歳月が流れ、杉内先生は現在95歳。
昨年の成績は8勝10敗でした。
まだまだご健在です。
杉内先生に対する畏敬の念は、日々上方修正されています。

なお、今月私は日本棋院情報会員用のページで昨年の杉内先生の対局を解説しています。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひご覧ください。

中大囲碁部現役・OB交流会

2016年04月17日 23時59分59秒 | 日常
皆様こんばんは。
今日は中央大学囲碁部の現役・OB交流会に参加してきました。
中央大学は伝統的に囲碁部の活動が盛んであり、この交流会も長く続いています。
参加OBの年代も幅広く、就職したばかりの若手から定年退職された大ベテランまで参加されています。
卒業しても戻ってこれる場所があるというのは良いものですね。
囲碁未経験の学生でも、現役・OB一丸となって指導するので安心ですよ!

私も在学時は団体戦に参加していましたが、個人戦での勝負とは全く違う緊張感がありましたね。
2年間で唯一負けた時は皆に申し訳ない気持ちで一杯でした。
最も、周りを見渡すと私のチームは全員負けていましたが・・・(笑)
プロになってからはなかなかできない、貴重な経験になっています。

自分のやりたい事に一心に打ち込めるというのは学生時代ならではですね。
私の周囲にも部活動に熱中した人、国家資格を目指した人、女性の口説き方を極めようとした人(?)等いろいろいました。
そして私は囲碁に打ち込んだ結果プロになりました。
OBとしては新しい学生が入ってくる度に、今後の成長を想像して楽しみな気持ちになります。

もしこれを見ている中大生がいたら、ぜひ一度囲碁部に遊びに行ってみてください。
棋力、時期、学年には関わらず歓迎だそうですよ!

マトリョーシカ?

2016年04月16日 23時59分59秒 | 問題集
皆様こんばんは。
本日も実戦を元にした問題を出題します。
問題化のために改造した結果、実戦の面影があまりなくなってしまいましたが・・・。



黒番です。
苦しい形ですが生きる方法を探してください。





黒1ではスペースが足りません。
黒5とやってみてもシチョウです。





黒1と一歩進めてみるのも、やはりダメです。





「2目にして捨てよ」の格言通り、黒1と下がるのが第一歩です。
最初の図でこの手が思いつかなかった方は、ここからどうなるか考えてみてください。





黒1と打つのは、白2でダメです。
既に出ている図と同じになってしまいますね。





2目にしただけでは足りないので、3目にして捨ててみましょう。
1の点に白に打たれて失敗しているので、「敵の急所は我が急所」でもあります。
すると、どうなっているでしょうか?





白2、4と取りに来た時に、利きが増えています。
黒AとBが見合いになり、黒生きです。





しかし、ここでまた問題です。
簡単には生かさないと、黒1に白2と応じてきました。
どう対応しますか?





黒1と受けるのは失敗です。
目を作るスペースが足りません。





黒1と真ん中にツケるのが正解です。
白2と渡りを止めるのは黒3で先にアタリです。
白Aと来ても黒Bで問題ありません。





白2なら黒3で渡れています。
曲がり4目の形で生きとなります。





実はまだ終わりません。
黒1に白2と来たらどうしますか?
最後の問題です。





うっかり黒1と打つと白2で5目ナカデです。
今までの苦労が水の泡になってしまいます。





ナカデにされないよう、黒1が正解です。
白2と来られても攻め合いは黒が勝っています。
これらの図が全部読めてこの問題は読み切りとなります。
実戦で読めれば、プロにも3子以内の腕前でしょう。


問題を解くために次々と小さい問題が出てくる、マトリョーシカ人形のような構成になったと思います。
皆様、楽しんで頂けましたか?
作者としては手間がかかりすぎるので、もうやらないかもしれません(笑)