白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

佃亜紀子五段ー於之瑩六段

2019年02月23日 22時31分35秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
SENCO CUPワールド碁女流最強戦では、エキシビジョンマッチとしてタイ、ベトナム、マレーシア、シンガポールの4か国のアマチュア代表によるエキシビジョンマッチも行われています。
囲碁は人種や言語に関係なく楽しめるゲームですが、これまで世界チャンピオンはプロアマ問わず、日中韓台からしか出ていません。
やはり環境による差が大きいのですが、近年は情報化によって囲碁を楽しんだり勉強したりすることのハードルは低くなりつつあります。
いずれ本当の意味での世界戦が行われる時代がくることを願っています。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日はSENCO CUPワールド碁女流最強戦の準決勝が行われました。
ここでは佃亜紀子五段と於之瑩六段の対局に注目してみましょう。

ちなみに、日本代表は扇興杯上位4名から選ばれています。
最近は若手の躍進が著しいのですが、そこにベテランの佃五段が割って入りました。
独特の棋風の持ち主だと思います。

於之瑩六段は、言わずと知れた中国を代表する女流棋士ですね。
ここ数年は、ずっと韓国の崔精九段と世界ナンバーワンの座を争っていると言えるでしょう。



1図(実戦)
於之瑩六段の黒番です。
このあたり、いかにも白が苦しそうに見えます。
左右の白がどちらも弱いですからね。





2図(実戦)
しかし、ここで白1と陽動部隊を放ち、黒が構っている間に白3~7と右辺黒を攻撃!
次に黒Aなら、白Bから皆殺しにするつもりでしょう。





3図(実戦)
結果、黒×をもぎ取り、右上白も生きました。
佃五段が独特のパワーを発揮し、地合いではリードを奪っています。





4図(実戦)
ただ、於六段も冷静でした。
左辺白全体を脅かしながら黒△と白2子を千切り、左下の黒地を大きくまとめています。
どうやら形勢は逆転には至らなかったようです。


佃五段は予想以上に良い戦いを見せてくれましたが、あと一歩及びませんでしたね。
準決勝のもう1局では崔精九段が黒嘉嘉七段を破っており、明日行われる決勝は崔精九段と於之瑩六段という本命同士の対決となりました。
2人とも私より強いですが、しっかり解説したいと思います。

SENKO CUP開幕!

2019年02月22日 23時53分02秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
本日、SENKO CUPワールド碁女流最強戦2019が開幕しました。
世界のトップ棋士女流棋士が日本にきて対局するという貴重な機会です。
ちなみに、2/24(日)に行われる決勝戦は日本棋院ネット対局幽玄の間で中継されますが、私が解説を担当します。
ぜひご覧ください。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日はSENKO CUP1回戦の結果は、日本勢で勝ったのは佃亜紀子五段のみという厳しい結果でした。
それでは、今回は牛栄子二段と崔精九段(韓国)の対局を振り返ってみたいと思います。



1図(実戦)
牛二段の黒番です。
この場面、普通の棋士の感覚なら、足早に中央へ進出する黒Aに石がいくでしょう。
実戦は左上白への攻め狙いを強調したものと思われます。
いかにも牛二段らしい力強さです。





2図(実戦)
そして、ついに黒△と襲い掛かりました!
白全体を丸ごと攻める狙いですが・・・。





3図(実戦)
ヒラリと身をかわされてしまいましたね。
崔九段は剛腕の持ち主ですが、戦上手でもあります。





4図(実戦)
牛二段も随所にらしさを見せましたね。
黒1~5としつこく食い付き、白全体への寄り付きを狙っています。


本局は牛二段が持ち味を生かしてよく戦いましたが、崔九段に上手くかわされたということになるでしょう。
ただ、楽に勝っているようにも見えず、結構良いところまでいっていたのではないかと思います。
次の機会にどんな戦いを見せてくれるのか、楽しみですね。

明日は於之瑩六段と佃亜紀子五段、崔精九段と黒嘉嘉七段の対局が行われます。
ぜひご覧ください。

棋士紹介第7回・酒井佑規初段

2019年02月21日 21時31分43秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
木曜日は日本棋院棋士の公式対局日です。
日本棋院ネット対局幽玄の間では多くの対局が中継されました。
帰宅後真っ先に確認したのは杉内寿子八段の対局ですが、本日の結果は残念でしたね。
内容の派手さで言えば、加藤祐輝六段と彦坂直人九段の対局が断トツでした。
ちなみに、私の対局も中継されていましたが・・・。
後半は緩みすぎ、大ポカもありと、ちょっとだらしない内容でしたね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は棋士紹介シリーズの第7回です。

<酒井佑規初段(公式プロフィール)>

平成16年(2004年)4月14日生まれの14歳、朴訥な印象を受ける中学2年生です。
しかし、若い・・・。
私が入段した時、彼は1歳ぐらいですよ。

今まで、杉内八段以外は棋道賞受賞者から選んできましたが、今回はネタができたので臨時でご紹介することにしました。
酒井初段の対局が終わった後、ベテラン棋士たちが彼を取り囲んで碁を見せてもらっていたのですが、私もその輪の中にいたのです。
非常に若い棋士ということで注目していたこともありますが、なんと言っても碁の内容に驚きました。





1図(テーマ図)
酒井初段の黒番、相手は芝野龍之介二段です。
なお、うろ覚えなので手順などに間違いがある可能性もありますが、その点はご容赦ください。

さて、昼休みに碁を見に行ったらこんな盤面でした。
この黒の構えは、一体???
?マークが沢山浮かびましたが、再開時間が近付いたので自分の対局に戻りました。





2図(実戦)
序盤のこの場面、黒×が弱いのでまず黒AやBと逃げる手が思い浮かびます。
あるいは、黒Cと攻撃から入り、白△との競り合いに持ち込みたくなる人もいるでしょう。
しかし、酒井初段の選択はなんと黒D!





3図(実戦)
左下の黒2子を捨て、中央に勢力を築く大作戦でした。
この思い切りの良さにはビックリです
左辺から下辺にかけての白地は、ざっと85目ぐらいありそうに見えますからね・・・。

そしてこの黒△です。
辺の星から上にコスミとは、見たことのない構えですが・・・。
この手には、どうやら凄い決意が秘められていたようです。





4図(実戦)
白が右辺に侵入したのは当然です。
白7までと進んだ場面がテーマ図でした。
皆様は、現在どんな状況になっていると判断されますか?
「白が右辺で治まり、これから黒が中央をどれだけまとめられるかが勝負」といったところではないでしょうか。





5図(実戦)
そう思った方は大外れです。
昼食休憩時の私もですが・・・(笑)。

実戦は、なんと右辺白を皆殺しに行きました!
確かに部分的に2眼はありませんが、外側が穴だらけなので、こんな石が死ぬとはとても思えません。
おそらく、芝野二段もそう思っていたでしょう。
しかし、酒井初段は全力で白を追い詰め、ついに仕留めてしまいました。
しかも残り1分の秒読みに急き立てられながらです。
恐ろしい腕力ですね。

正直なところ、結果を知っていても酒井初段の作戦は無茶に思えます(笑)。
しかし、昨日も書いたように若いうちはどんどん無茶をして良いと思います。

ところで、かつて加藤正夫名誉王座と言う大棋士がいたのですが・・・。
加藤名誉王座が22歳六段の時、高川秀格九段の大石を仕留めたエピソードがあります。
局後の高川九段は、「こんな石が取られるのかねえ」と加藤六段の腕力に呆れたそうです。
酒井初段は、第二の加藤正夫になれる素質を秘めているのかもしれませんね。

仲邑菫新初段-黒嘉嘉七段

2019年02月20日 23時21分53秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
数日の間は毎日更新、と言った傍からお休みしました。
明日の対局のための調整の一環です。
・・・睡魔に勝てなかっただけとも言いますね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は仲邑菫新初段と黒嘉嘉七段の新初段シリーズが行われました。
新初段シリーズは週刊碁の伝統ある企画で、日本棋院の新初段が一流棋士に挑戦するというものですが、海外の棋士と対局することは極めて稀です。
まだデビュー前ですが、仲邑新初段は物凄い経験を積んでいますね。

また、極めて注目度の高いこの対局は、日本棋院ネット対局幽玄の間囲碁プレミアムにて中継されました。
これも異例のことです。

さて、それでは早速感想を述べたいと思います。



1図(実戦)
仲邑菫新初段の黒番(コミ無し)です。
まずこの場面に注目しました。
黒×が弱いので、普通の人は黒Aあたりに打つでしょう。
それを、白を攻めるためとは言え、相手が打ちそうもない地点に打つとは・・・。
一言で言えば、若気の至りということになるでしょう(笑)。

しかし、若気の至りは大いに結構だと思います。
多少無茶でも、自分の感性に従って打つことが能力を伸ばす近道になると思います。

思えば、私がプロになった時には既に20歳を過ぎていました。
思い切って打とうとは思っていたものの、「負けたらどうしよう」という思いが常に付き纏っていたのです。
20代半ばあたりまで、対局以外の収入はほとんどありませんでしたからね。
そんな精神状態では、手が縮こまってしまうことも多々ありました。
貧すれば鈍する、という言葉通りです。
そう考えると、仲邑新初段をはじめ、若くして入段した棋士は羨ましいですね。





2図(実戦)
黒が無理気味の戦いになったと思いました。
しかし、このような接近戦は仲邑新初段の得意中の得意のようです。





3図(実戦)
黒△まで、見事な振り替わりです。
黒七段という手強い相手に対し、一歩も引いていません。
やはり接近戦は私より強いですね。





4図(実戦)
前図の後は誰しも白×を攻めたくなりますが、その前の左辺の打ち回しに非凡な才能が表れたと思います。
遠くの黒×が攻めに役立つとみているのですね。
仲邑新初段は布石が苦手と言われています。
しかし、狙いを絞った時の構想力は凄いです。
まだ9歳ということで、これは天性のものと考えられます。





5図(実戦)
しかし、ここで黒Aとハネなかったのは仲邑新初段らしくなかったと思います。
このあたりから、だんだん弱気な方に石が向かっていった感がありました。
細かい手の善悪より、こういったところを反省すべきでしょうね。


ところで、今まで仲邑新初段の碁は何局か見てきましたが、本人の感想はあまり聞いたことがありません。
どういう考え方や気持ちで手を選んでいるのでしょうか?
週刊碁の紙面で、そのあたりが明かされると良いですね。

プロアマMIXトーナメント

2019年02月18日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
農心杯は井山九段、残念でした。
後は韓国の朴廷桓九段と中国棋士4人が残っている状況です。
中国棋士も全員世界チャンピオン経験者ですが、朴九段は韓国チームに奇跡の逆転優勝をもたらすことができるでしょうか?
</本日の一言>

皆様こんばんは。
3日ぶりの更新です。
これから年度末にかけて非常に忙しくなるので、しばらく日記は不定期更新になる予定です。
書くべきことがあるので、もう数日は毎日更新するかと思いますが。

さて、2月16日(土)、17日にかけて、プロアマミックストーナメントというイベントが行われました。
プロアマの男女、総勢32名によるハンデ戦トーナメントです。

個人的には、男性アマから優勝者が出るのではないかと予想していました。
ハンデ戦は序盤もかなり重要なのですが、最近はAIを活用した研究などもあり、差が付きにくくなっていますからね。
男性プロ対男性アマの逆コミ6目半の対局は、男性プロ側が苦労するかと思いました。
しかし、結果的にはアマ側は栗田さんの1勝のみでしたね。
一流プロ恐るべし、でしょうか。

さて、ここでは決勝の黄翊祖八段と許家元碁聖の対局を振り返ってみたいと思います。



1図(実戦)
黄八段の黒番です。
少し前に黒△と開いたのはサラっとした打ち方に見えましたが、白1に対しては黒2と反撃し、黒4の強打につなげていきました。
黄八段は独特の棋風なのですが、特徴を一言で表すなら柔軟です。
押し引きを瞬時に切り替えている印象があります。
許八段にもその一面がありますが、比べてみるとやはり許八段の方が力で押すタイプのように感じますね。





2図(実戦)
白1と守ったにもかかわらず、即座に黒2と動き出しました。
黄八段は読みに自信を持っているので、いけるとみれば難しい戦いでも全力で押していきますね。





3図(実戦)
黒△まで、白×が動きにくい姿になりました。
ここは黒が力押しでポイントを上げました。





4図(実戦)
許八段も必死の反撃を見せました。
白△とは凄い!
白AとBの2通りの手段を狙っており、確かに手筋ですね。

しかし、ここは黒も冷静に対応して乗り切りました。
この後白は左上黒に矛先を変えますが、そこも黒が凌ぎきって勝ちを決めました。
黄八段の快勝だったと思います。

なお、他にも多くの対局が幽玄の間で中継されました。
そちらもぜひご覧ください。