いい女よりもいい男の数は少ない

男の恋愛ブログです。
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君を想う

2019-04-01 01:46:41 | 日記
その男はネットでとある画像を目にすると絶望した。カッコいいカッコいいと言われて生きてきたが、「彼」が100だとしたら自分は1にも満たないかもしれない。キラキラと輝くような笑顔で通販サイトの下着モデルはこちらを見つめていた。

「ゲイの世界には全く興味がないが、下着モデルになりたい」

そう思うと、その男は別の下着サイトに応募してみることにした。明らかに格下のブランドで、モデルも大した事はなく、思った通り即採用となり色々と学ばせてもらった。素人の自分が一応はモデルになれたのだと思うと自尊心がくすぐられた。例え売れないゴーゴーでも下着モデルでも、AVにちょっと出演しただけであったとしても世間が思っている以上に反響は大きい事を知った。こんな素人モデルでもSNSからはちらほらとオファーがくる。中には愛人契約のDMが届いていて笑ってしまった。

カッコいいと言われてきた人生は、それはそれで幸せだった。何不自由なくとまでは言わないものの、愛に溢れた人生だったと思う。しかし、第一線にはなれない人生でもあった。鍛えまくって研究と努力を重ねた普通顔の男の方が上には行けるのだ。カッコよくなりたい。モデルになって初めてその男はそう思った。少しして彼は期待の新人モデルとして活躍の場を広げていった。

地方企業に勤める会社員の男はネットやSNSでゲイの情報を集めるのが趣味だった。フォルダは拾い画像や動画で溢れ、タイプの男性のInstagramやTwitterを眺めているのが日課だった。いつも通り色々なサイトを眺めていると新しい下着モデルが追加されていて衝撃を受けた。まだ粗削りな感じではあったが、本当にタイプだった。イベントに出演すると書いてあったのでスケジュールを確認すると唯一東京に行けそうな日があったのでその日に決めた。いい年をして下着モデルに恋をしてしまったかもしれない。そう思うと胸が締め付けられた。

何回もサイトを確認してイベントの情報を確かめた。小さなお店のようだったので荷物はほとんどホテルに置いて新宿に向かった。会ったら何て言おう。長話する度胸もないが、そんな状況にもならないだろう。握手くらいは無理やりにでもしてもらわないと交通費の元が取れないよな。そんな事を考えながら歩いていると新宿2丁目にあっという間に着いてしまった。緊張するけど、どうでもいいような、変な気持ちのまま店に入る事にした。

モデルの男は早めに店内に出ることにした。色々な客から声が掛かる。大体が一緒に写真を撮ってくれと言ってくるが、逆に声を掛けられなさそうにしている客にはこちらから声を掛けた。人気というのはあっという間になくなるものだと知っている。いつの日か自分もそうなるのだ。その最後の時まで支持してくれる人を1人でも多く作るのが今だと思っている。ちやほやしてくれる人が真っ先に手のひらを返すのだろう。薄情な大多数の人間によって人気というものが作られているのかもしれない。

何回か目が合った男性がいた。自分目当ての客ばかりではないので違うモデルやゴーゴー目当ての客かもしれないと思ったが、一言声だけ掛けてみることにした。

「こんばんは。楽しんでいますか?」

「〇〇さんですよね?一度会ってみたくてきました。」

会社員は、まさか自分に向こうから話しかけてくるとは思っていなかったから咄嗟に切り返せなかった自分を恨んだ。もっと気の利いた事が言えたら彼の印象に残ったはずだ。こんな事ならプレゼントでも持ってくればよかった。自分はその他大勢の1人で、こんな1対1になる機会は訪れないと思っていたので何の準備もしていなかった。おしゃれだねって笑顔で褒めてくれたのも不意打ちだった。何もかもがグダグダの会話になりながらホテルへの帰路についた。モデルの彼との会話の一言一句全てを反芻し自分の会話力のなさを後悔しながら思ったことがある。彼の事が好きだと。