いい女よりもいい男の数は少ない

男の恋愛ブログです。
過去の記事は随時掲載していきます。
以前読んで下さっていた方、ありがとうございます。

2016-10-26 00:24:35 | 日記
ハロウィンの新宿2丁目は大勢の人でごった返していた。奇跡的にココロカフェで席が取れたのでケーキを食べながらお互いの話をしているのが心地よかった。彼は明日仕事が早い事を知っていたので、22時頃に席を立った。再び混雑する仲通りに放り込まれて2人して顔を見合わせて笑ってしまった。

自分はゲイでありながら、ゲイの世界に馴染めていない事を知っている。ゲイと恋愛を重ねてきておきながら、相手にノンケっぽさを求めて破綻してきた事も知っていた。顔も体も完璧な男達と恋愛する事は他の男達の羨望の眼差しを一身に受けるという意味では最高の遊びであったが心が満たされる事はなかった。長い旅を経て気が付いたのは、与える恋がしたいという事だった。

「人がいない場所はないかな?」

「じゃあ、裏道から駅に向かおうか」

地方からやってきた彼は目を真ん丸にして2丁目を見ていたがすぐに疲れてきてしまったようだ。早く帰してあげたい。自然と彼の横顔をみながら、そう思った。

ちょっといい事があった時はつい彼にLINEで報告していた。何か面白い話を聞くと今度会った時に彼に話してあげようと思うようになっていた。おしゃれなカップを見つけた時は、彼とお揃いで買ったらどうかなと考えるようになっていた。

いい男を見てSEXしたいと思うよりも「ああなりたい」「どうしたらああなれるのか」と自分は考える。自分がいい男になる事が全てであり、その他はどうでもいいという人生を歩んできた。そんな自分は、30を過ぎて、他人に何かを与える恋愛を望んでいる。何かをしてあげるということではない。相手の為に生きるということだ。自分の為ではない。

死ぬほど忙しい彼のスケジュールを押さえる気はなかった。毎日LINEでやり取りしようと思ってもいなかった。出会って好きだとは思ったが、無理してオレと会ってくれるよりも彼が毎日1時間でも多く寝られて元気に出社できた方がよかった。だからそう伝えた。幸せにしたい、とも。

「もう、幸せかも」

部屋でいつまでもゆっくりできる相手が本当のタイプなのかもしれないと思う。



永遠

2016-10-06 22:44:47 | 日記
あの日、あなたを見掛けた瞬間、オレは声を掛けずにはいられなかった。トレーニングを終え、汗だくでいたあなたに声を掛けると驚いた顔をして、こちらを振り返った。正直に言って決して好きな顔ではなかったが、その佇まいというか彼の全てがなぜか気になった。こんな事があるのだろうか。そう思うのが先か、気付いたら彼の元へ歩き出していた。見知らぬ男性に声を掛ける。ただそれだけのことなのに少し怖かったのを覚えている。

タイプではなかった。彼がゲイかどうかも分からなかった。会話のきっかけになるものもさすがにこんな急には用意できてはいない。でも、きっともう2度と会う事はない気がした。だから声を掛けよう。誰かに初めて告白する時は、こんな想いだっただろうか。これはオレの恋愛の話ではない。好きでもなく、でもなぜか一緒にいたいと思う、そんな恋にも似た物語。

「あの時は、ありがとう」

「え?」

車を運転している彼が、オレの話を聞いていたのか聞いていなかったのか分からない返事を返してきた。運転は久しぶりだと言っていたっけ。運転に集中していたんだと思う事にした。

「いきなり声を掛けたのに話を聞いてくれて、だよ」

あれから何回かお茶をして今度ドライブに行こうという話になった。彼女と同棲していると言っていたが、体育会の男性は男に対しても愛があるように思える。バイだと言っているのではない。男の親友、男のチームメイト、男の後輩に対しても彼女と同じくらい愛しているのだ。だから、というのも乱暴だがこうして仲良くなれて今こうやってドライブしているのだろう。例え彼がバイであったとしても2人の関係において何かが変わる事はないはずだ。永遠というものはこの世には存在しないと思う。仲良しだと思っていてもあっという間に終わる関係もある。だからなのか始まりと終わりを自分はよくセットで考えている。この楽しいひと時を過ごしながら、いつこの2人は終わるのだろうか、と窓の外を見ながら自然と考えていたりするのだ。終わって欲しい訳ではないが、全てはいつかは終わるのだ。

運転している腕が太いなと思った。信号待ちで彼は水を飲んでいた。眠くなるから何か話していてくれと言われた。流れていた曲を彼は解説してくれた。波長が合うというのはもっとぴったりくっついた者同士の事を言うものだと思っていた。10年来の親友だとか5年同棲しているカップルだとか、そういう関係だ。オレと彼はそんなに気は合っていない。価値観が違ったし、2、3回しか会っていないが話が噛み合わない事も何回かあった。適度に会ってたらちょうどいい関係のはずだが、2、3回しか会っていないのに2人でドライブに行けてしまうところが何か「噛み合っている」気がした。不思議な関係だと思いながらも、オレは彼の動作の一つ一つを自然と見つめていた。

我々は全く気が合わない事が一緒にいて判明した。育った環境が違うのだろう。どこと説明はできないが何かが違っていた。それはよく分かったが、一緒にいて楽しいという事も分かった。意見も微妙に食い違ったり本調子になれない2人だったが、一緒にいて楽しかったのだ。こんな事があるのだろうか。

予定通りの時刻なのに、ではそろそろ帰ろうか、と切り出すのがお互いに躊躇われた。どちらかが切り出して、どちらかが、そうですね、と返したのを覚えているが、どっちだったかは覚えていない。帰りは彼のプレイリストを流しながらあっという間に新宿の街が近づいてきた。

これは夏のドライブ。秋は秋でまた出掛けて、冬は冬でどこか行こう。そして、また来年の夏もドライブしようよ。なぜかそんな事をオレは口にしていた。オレは何を言っているのだろう。これではまるで、これからもずっとあなたといたいです、と言っているみたいじゃないか。

「いや、別に変な意味じゃなくてさ、」

オレが口を開くと同時に彼が思いがけない提案をしてくれた。

「その前に、今からメシ食いに行こうか。またドライブになっちゃうけど。って、ごめん何か言い掛けた?」

「ううん、メシ行こ。」

永遠に続くものは存在しないと思っている。何かが始まればそれはいずれ終わるのだと。でも思う。この友情が永遠に続けばいいのに、と。