*公式サイトはこちら 中野 ザ・ポケット 12月4日まで
プロデューサーの松枝佳紀(アロッタファジャイナ)によれば、「小劇場劇団8団体それぞれが『これこそ今一番の日本の問題』と思うことを短編演劇にして披露するもので、昨年の「Project BUNGAKU太宰治」の政治経済学版」とのこと。
参加団体は演出家も俳優も小劇場界のつわもの、猛者ぞろいである。
公演初日昼、A班を観劇した。
上演順に、
①経済とH(佐藤治彦)『金魚の行方』 お笑いコンビが「これから22分のあいだに、日本の問題を解決します」とネタふりし、展開する。
②Mrs.fictions(中嶋康太)『天使なんかじゃないもんで』 亡くなった親分の遺品を納めにかの地へやってきた兄貴とその舎弟。シスターのような女性と出会う。
③DULL-COLORED POP(谷賢一 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10)脚本担当もふくめ)『ボレロ、あるいは明るい未来のためのエチュード』 登場する俳優18名。それぞれ実名で総理大臣の座を争う。
④風琴工房(詩森ろば 1,2,3,4,5,6,7,8、9,10,11,12,13)『博物学の終焉』 およそ300年後の日本で行われる最後の授業の話。
本公演の目玉は終演後毎回トークショーが行われること、ゲストの多彩な顔ぶれである。演劇業界はむしろ少なく、政治家や社会学者、コメンテーター、小説家と、よくぞここまで豪華な方々をと感嘆する。プロデューサーはじめ、作り手側の手腕と熱意の賜物であろう。
本日のゲストは経済評論家の池田健三郎さん(公式サイトはこちら)。
自分はワイドショーというものをまったくみないため、これまで池田さんのお話をじっくり聞いたことがない。しかし公式サイトからもわかるように多方面での大変なご活躍ぶり!
トークショーは上演作品の演出家4名とプロデューサーの松枝氏にゲストを加えた6人である。
ゲストに舞台の感想を1本ずつ聞くことにはじまり、登壇者間でいくつかの質疑応答を行うシンプルなものだ。業界人どうしの内輪話的なゆるさはまったくなく、いわば専門外、畑ちがいのゲストの方の感想は非常に新鮮だ。「自分は演劇にくわしくないので」と謙虚におっしゃっていたが、素朴な疑問が大変鋭い指摘であったり(②で出てきた「鼻血」と「エリエールのティッシュ」)、作品の問題点(③のひたすら単純な繰り返し)をずばりいい当てたりするところがあって(ご本人には作劇の問題点を指摘する意識はなかったと察するが、的を得た指摘であった)高い山ほど裾野が広いことを目の当たりにする。
堅固な信念と哲学、思想があり、明確なビジョンをもって自分の仕事をまっとうされている方は、たとえ専門外の分野であっても、ゆるがない批評軸で考察することができるのだ。それも決して上からの評価でなく、謙虚な姿勢で。
池田さんのお話を聞いていると、政治経済と演劇が関わることによって、もしかしたらこの国に変化をもたらすことができるのではないかと希望がわく。両者はいわば対極であり、単純に「お互い仲良くしましょう」でできるものではない。しかし両方が連動することによって、片方ができないことを、もう片方が違う手法で成功させることがじゅうぶんありうる。
その可能性を示すことに、『日本の問題』公演は有効な手立てになるのではないか。
4作品のなかでは、Mrs.fictions(中嶋康太)『天使なんかじゃないもんで』が楽しめた。
任侠の世界から抜け出せないチンピラと、都会の吹き溜まりから逃げ出してシスターもどきをしている女性が出会い、珍妙な会話をかわす。20分の上演時間、舞台美術や小道具にも制限があり、しかも前後の作品から受ける影響もある。舞台づくりのメリットやデメリットを的確に把握し、ツカミがよく、しかも余韻を与える終幕であった。
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