因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団green flowers vol.11『かっぽれ!』

2011-11-26 | 舞台

*内藤裕子 作・演出 公式サイトはこちら 中野・Theatre BONBON 27日まで
 劇団green flowers(グリフラ)は2001年11月、演劇集団円研究所の同期生によって結成されたユニットだ。おもに演出家内藤裕子と俳優さとうゆいで活動を続けており、土田英生、原田宗典、飯島早苗などの作品に続いて、5回公演からはオリジナル作品を発表しているとのこと。今日は出入り口ぎりぎりまで補助椅子のでる盛況で、年配のお客さんが多い印象である。

 今今亭東吉(こんこんていとうきち)を師匠にもつ一門の噺家たちが、ある温泉宿に集まった。宿のあるじが以前師匠のおとうと弟子だった縁で、毎年地元の落語ファンに向けて一門会を行っているためだ。いちばんの古顔だがまだ二ツ目のせん吉、もうすぐ真内に昇進する東助は実は師匠のひとり娘の元カレだ。前座の吉太、元介護士で押しかけ見習いの鈴木と、一癖もふた癖もある噺家ばかり。宿の若女将との結婚の許しを得るべく、客室係として奮闘する婚約者も加わって、にぎやかな顔ぶれだ。

 NHK朝の連続テレビ小説『ちりとてちん』を大変おもしろくみていたので、落語の世界を描いた物語にすぐになじむことができた。あに弟子とおとうと弟子の関係、師匠への思い、噺家としての才能や適性への苦悩など、ここまでやれば完成、完璧というものはなく、生涯をかけても正解は出ず、成功が約束されているわけでもないことなどが、テンポのよいやりとりのなかで自然に示されてゆく。

 前座の吉太が見習いの鈴木くんに話して聞かせる流れで、あっというまに「柳田格之進」の物語がはじまるあたり、みごとな展開だ。背筋がぞくっとする。

 演劇集団円の山崎健二が師匠の東吉を演じるが、噺家らしい見せ場がほとんどないのは残念だった。娘は子どものころのある出来ごとがきっかけで、落語と父を憎んでいる。それを活かすために、敢えて立派な噺家ぶりをみせない作りにしたのだろうか。せっかくのベテランの配役なのに、もったいないのではないか。
 無口なせん吉が、師匠への敬愛をあふれさせる場面で、「(師匠の落語は自分に比べて)圧倒的にすばらしくて(←後半は記憶があいまい)」という台詞があり、江戸っ子口調のせん吉から「圧倒的」ということばが発せられることに少し違和感をもった。

 あに弟子は自分より才能のあるおとうと弟子をかばって嘘をつき、おとうと弟子は無骨なあに弟子を思いやる。安定した職を投げうってもこの世界に入りたいと懇願する若者がいて、父と娘は不器用に和解し・・・落語の人情話顔負けだが、話は食い違うわ、勘違いはするわ、かかなくてもいい恥はかくわの連続である。
 みな噺家なのに、高座よりも実人生のほうがはるかに不器用で不格好だ。現実はあまりにささやかで、みっともないところも多く、そのまま落語にはならない。それをよくよく知っている人たちだから、噺家になれるのだろうか。

 ここいちばんというところで似合わないことをやらかして、みごとに失敗する。しかし似合わないことのなかに、相手に対するまごころがにじむさまが生き生きと描かれ、ありきたりなドタバタの人情劇におさまらない。幅広い年齢層の観客に受け入れられる楽しい舞台であった。
 11回めの本公演まで「グリフラ」を知らなかったとは不覚なり。自分の怠慢と不勉強を改めて思い知る。

 ここは中野の劇場街、ポケットスクエア。複数の劇場が集中する一角だ。MOMOでは劇団スプリングマン公演『雨とマッシュルーム』の本番まっさいちゅう、向いのザ・ポケットでは明日初日の幕を開ける『日本の問題』公演のゲネプロが行われているらしい。
 不安と期待、緊張感と虚脱感がいりまじり、劇場でしか味わえない空気をかもしだす。
 下北沢や新宿三丁目にくらべると、中野は通い慣れたとは言えない町だ。しかしどこかで必ず何かしらの芝居がかかっているということが、こうも安心感を与えてくれるとは。
 いや何より今日の『かっぽれ!』の確かな手ごたえによって、中野の町の空気が肌になじんだせいだろう。芝居は町の「風景」を「情景」に変えるのだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇団劇作家『劇読み!』vol.4... | トップ | 『日本の問題』A班 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事