因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京乾電池1月月末劇場『眠レ、巴里』

2010-01-30 | 舞台

*竹内銃一郎作 嶋田健太演出 公式サイトはこちら 新宿ゴールデン街劇場 31日まで
「新宿夢舞台編」と題された本作は、東京乾電池創成期に在籍していた田根楽子を迎えて、角替和枝、若手の吉橋航也が共演するもの。演出の嶋田健太は27日まで本公演の『TVロード』の舞台に俳優として出演していた。制作の沖中千英乃も同様で、劇団のフットワークの強さ、創作意欲の旺盛なことには驚く。田根楽子は帝劇の舞台に出演しながらの稽古と本番だというから、これはもう感嘆である。

 舞台には白い布がぐしゃぐしゃと敷き詰められており、暗転すると暗闇から女ふたりの声が聞こえる。ホテルの部屋にいること、誰かに追われて身を隠していること、そのホテルがなぜかパリであること、2人の女は姉のノゾミ(田根楽子)と妹のアキラ(角替和枝)であることがわかってくる。なぜ追われているのかわからないが、ともかく姉妹はパリにいて、姉はあちこちへ出かけようとガイドブックを楽しそうに読むが、妹は眠くてたまらない。もう決して若くはない姉妹が些細なことで言い争う。パリまで来たというのに。

 暗転すると同じ部屋にちゃぶ台があり、姉妹はご飯とみそ汁の食事をとっている。パリまで炊飯器を持ち込んで?次に暗転すると、今度は姉妹で千羽鶴を折っているのである。しかも尻取り歌に負けると折り作業のノルマが増えていく。正面壁には窓枠を表す白い四角の枠がぶら下がり、エッフェル塔の絵が描かれている。姉妹は「あそこに昇って、この部屋に向かって手を振ろう」と狂喜する。ほんとうにここはパリなのか?

 次に暗転すると、そこには眉毛の鋭い若者がいて姉妹の末路を語る。
 ああ、そうだったのか。場所や時間の設定がつかめない前半から一転、現実的な話になるわけだが、語る若者も相当に奇妙であり、物語の構成を説明的に示しているようには見えなかった。嫁がず、子もなさず、理由はわからないが借金をして、借金取りから逃れてアパートに引きこもりながらパリへの妄想を抱き続けた姉妹の話には、心が薄ら寒くなる。
 前半姉妹が喧嘩のとき、妹が「私は眠いの、死にたいくらいに」と言うと、姉は「じゃあ死ねば?」と言い返し、妹は「化けて出てやる」と捨て台詞を吐く。しかし終幕ミラーボールが輝くなか、着飾って現れた姉妹の姿をみるとき、前半のやりとりが尋常でない状況で行われたかもしれないことを感じる。
 『眠レ、巴里』という素敵な題名に、もの悲しく残酷な意味が秘められていることに気づくのである。

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