因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

新宿梁山泊 第58回公演 『マクベス』

2016-11-26 | 舞台

*ウィリアム・シェイクスピア原作 小田島雄志翻訳 金守珍演出 宇野亞喜良美術 公式サイトはこちら 芝居砦満天星 27日で終了
 満天星シェイクスピアシリーズVol.3
 梁山泊は、2011年夏、スズナリでの公演を一度見たきりである。
 芝居好きの友人からいろいろに情報や噂を聞きながら、本拠地にはなかなか行けないでいたのだが、今回遅ればせながら、はじめて芝居砦満天星へ。同道の友人も「一度しか行ったことがない」そうで、ふたりして劇団から届いたチケットに同封の道案内を頼りに、途中お寺や墓場の横を通り、たどり着いたのは、築30年は軽く超えていると思われる古い団地であった。さらに階段を地下2階まで降りていく。これが夜の公演で、ひとりであったらどれほど心細いことか。しかし来年創立30周年を迎える新宿梁山泊の拠点、芝居砦満天星は、「ここにこんな場所があるのか」と驚嘆するほど豊かで楽しく、寛げる空間であった。

 ゆったりとしたロビーは、新宿の古い喫茶店を思わせ、奥のカウンターで飲み物を注文することもできる。そして何より驚いたのは、階段、ロビー、廊下や通路に掛けられたたくさんの公演ポスターである!梁山泊のものはもちろんのこと、状況劇場公演のものも惜しげもなく飾られており、それらに囲まれていると時空を飛び越えたような感覚に陥る。
 さらにロビーから劇場へ案内してくれる俳優さんたちのてきぱきとした対応、あとひとつ席を作りたいと少しずつ詰めてもらうよう観客を誘導する手際が実に気持ち良く、これから芝居を見る気持ちを高めてくれる。

 満天星の天井は低く、両脇に太い柱があり、客席もそうとうにきつめの作りであるが、舞台の奥行きがあり、底知れぬ闇が続いているかのように見えて圧迫感がない。数枚の紗幕、通路も使った俳優の出入り、そして奥行きをたっぷりと活かした運びで、『マクベス』を90分ノンストップで走りきる。俳優のメイクも(とくに魔女3人)衣装も手の込んだもので、また気合いを感じさせる迫力の大道具小道具が次々に登場し、公演チラシにあるように「光の射さぬ地下の砦で、野心の焔が燃えさかる」舞台がまさしく。

 だいたい自分はさまざまなものに出遅れるたちであるが、新宿梁山泊には30年も遅れをとってしまった。唐十郎、寺山修司はじめ、日本のアングラの息吹を今に伝えんとする金守珍率いる梁山泊、見のがした舞台を想像すると残念でならないが、未来の舞台に期待しよう。

 俳優の声について考えた。舞台において求められる俳優の声とはどんなものであろうか。美しく、よく通る声であることは大切だ。適切な訓練を受け、根気強く鍛錬を続けて声を変えることは可能である。しかし後天的な努力では変えられない地声の部分はどうしてもあるだろう。客席に届くのは、美しい声というより、美しい聞かせ方のできる声ではないだろうか。多くの俳優の声を浴びるように聴くなか、最後までなじめない声もあり、役が要求する声、役に必要な聞かせ方を探るとともに、客席においてもよい耳を持てるよう努めたい。

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