因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

アル☆カンパニー第7回公演『家の内臓』

2010-05-23 | 舞台

*前田司郎作・演出 公式サイトはこちら 30日まで新宿スペース雑遊 6月4日~6日まで 川崎市アートセンター/アルテリオ小劇場 (1,2,3,4)
 温泉地の旅館の一室での出来事。前作と似ているが、今回は職場の社員旅行だ。炬燵に足を突っ込んで寝ている女が2人(井上加奈子、小林美江)、夜更けだというのに妙にテンションの高い男(平田満)と年若い部下(西園泰博)がちぐはぐな会話を続けている。部屋の奥にはもう1人女(橋本和加子)が寝ているらしい。

 他人どうしの社員が男女で同じ部屋に泊まるのも変だなと思ったら、平田と井上は離婚した「元夫婦」で、奥に寝ている女はその娘だという。5人は家の内装をする会社の社員で、元夫婦は結婚前から離婚後のいまもずっと社員として働き、娘も入社したらしい。複雑なのか単純なのか判断できない設定。仕事仲間のような家族のような、不思議な関係の人々の会話がひたすら続く1時間15分の物語である。

 アル☆カンパニー公演でいつも感じるのは、若い劇作家・演出家に対するベテラン俳優の平田満、井上加奈子夫妻の謙虚な姿勢と、舞台への溢れるような情熱だ。「お人柄だなぁ」と感じ入る。しかし作り上げた舞台に対して、言葉にしがたい違和感がわき起こるのである。それもほぼ毎回のように。
 たとえばこれがこまばアゴラ劇場で、父親役が志賀廣太郎や猪股俊明だったら(平田満とは違うキャラクターだが)、自然に受け入れたかもしれない。とりとめがなく、起承転結もはっきりしない、非常に覚えづらそうな長台詞を話す平田満には頭が下がる思い。いや、そうではなくて、「頑張っていらっしゃるんだなぁ」という感覚で前田司郎の劇世界を考えるのは、何かが違うのではないか。平田満の実直そのものの演技をみていると、「この台詞には何か意味がある、この物語はきっと新しい展開があるはずだ」と期待してしまうのだ。そういう話ではないことが、終幕に至って自分でも戸惑うほどの「がっくり感」になり、1時間15分の上演時間が冗長に感じられ、お金のことを言うのははしたないと思いつつも3800円のチケット代が割高に思えるのだった。

 家族、親子、夫婦というテーマにことさらこだわっているわけではないのかもしれないが、平田、井上ご夫妻を核にした書きおろしというのは、こちらが想像するよりずっと難しいのではないか。せっかく若手劇作家・演出家がベテラン俳優と組み、共演の若手はワークショップで選ばれた精鋭なのだ。単純な希望であるが、もっと手ごたえが得たいと願うのである。

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