因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

風琴工房秋公演『わが友ヒットラー』

2014-09-16 | 舞台

*三島由紀夫作 詩森ろば演出 公式サイトはこちら 渋谷TRUMPROOM 14日で終了
 詩森ろばが三島由紀夫戯曲に挑む。ヒットラーに古河耕史、レームに浅倉洋介、シュトラッサーに山森大輔、クルップに小田豊の魅力的な布陣だ。
 参考までに別の座組みでの観劇記録→1,2
 今回の会場である渋谷TRUMPROOMがすごいところで、壁じゅうに鏡やさまざまな調度類があり、ただでさえ長細く狭い部屋を両側から客席がはさみ、そのあいだで俳優が演技をする。

 それまでバッハのピアノ曲が優雅に流れていたところ、照明も音楽もヘヴィーな調子に変わって4人の男たちが登場する。赤い絨毯に金銀の調度類、そこに濃紺のあの制服、袖にはハーケンクロイツをつけた古河耕史のヒットラー。ポケットから櫛を出し、壁の鏡を見て髪を整えるすがたに、もうぞくぞくする。

 客席はソファと足の高い椅子で2列あり、座り心地を考えて前列のソファに掛けたが、すぐ目の前に俳優が立ち、見上げるようにしなければならない。しかも全編が論争、議論の芝居である。視覚、聴覚に加えて、この狭い空間での激しい論争劇は心身に強い圧迫を与えるもので、集中するにはいささか辛かった。
 またこれは完全に自分の責任であるが、こじらせた夏風邪のために体調が万全でなかったのも集中を欠いた原因のひとつである。

 改めて戯曲を読み直してみるに、「独裁政権誕生前夜の運命的な数日間を再現し、狂気と権力の構造を浮き彫りににした」(新潮文庫紹介文)とある通り、1934年の「長いナイフの夜」(Wikipedia レーム事件)が題材である。
 個人の力ではどうしようもない歴史の大きなうねりなどとよく言われるが、その歴史を構成しているのは一人ひとりの個人であり、ひとつのことば、決断、行動が積み重なって歴史になるのである。ヒットラーは、ヨーロッパ中を戦火で覆った第二次世界体験、ユダヤ人の大量虐殺を引き起こした怪物。人間の範疇を越えて、ヒットラーという破壊的な社会現象のように思われるのだが、目の前にいるのはたしかにひとりの男であることにある意味安心もし、しかし次の瞬間に背筋が凍るほどの恐怖に襲われるのである。

 4人の男たちが政治的思惑や哲学をあるときは感情むき出しに激しくぶつけ、あるときは歌うように語る。戯曲を目で読むにも内容がさらさらと頭に入ってくるわけではなく、これを上演の現場で俳優を目でみて、台詞を耳で聴いて理解、把握するのは容易ではない。
 こちらの勉強不足と体調の自己管理ができなかったことにも大いに要因があり、何らかのかたちで風琴工房『わが友ヒットラー』と、もう一度お手合わせ願いたい。

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