*ウィリアム・シェイクスピア原作 鶴澤清治監修・作曲 河合祥一郎翻訳・脚本 公式サイトはこちら 国立劇場小劇場 22日まで
タイトルは「ふぁるすのたいふ」と読み、」シェイクスピアの『ヘンリー四世』と『ウィンザーの陽気な女房たち』に登場する「フォルスタッフ」が文楽でお目見得するもの。脚本の河合祥一郎、美術、衣裳の石井みつるのインタヴューや解説など、本作登場のプロセスから、開幕してからの客席の様子などは特設サイトのブログに詳しい。
因幡屋ぶろぐに唯一掲載した文楽公演の記事が、やはりシェイクスピアの『テンペスト』をベースにした2009年9月公演『天変斬止嵐后晴』(てんぺすとあらしのちはれ)であったことを思いかえす。たしかこの年は12月の文楽鑑賞教室にも行った。登場人物が男か女か、優男か、「ガチムチ系」男子かなどで、三味線の調子がこのようにちがうということを実演してくださって、たいへんおもしろかった。そのあと「仮名手本忠臣蔵」をみたはずなのだが、記事にはできなかったらしい・・・。
以前も感じたことだが、文楽公演の客席は新劇とも歌舞伎ともちがう雰囲気があって、自分はまだそれになじめていない。今夜も開幕直後、義太夫と三味線が並んだところで客席のどこかからか、「お扇子の方はやめてください」と鋭い声が聞こえた。前方の席の観客が扇子で仰ぐ動作が観劇の妨げになるということなのだろうが、いやはっきりおっしゃるのですね。こちらまで少々萎縮した。
上演時間は1時間20分、いつとも知れぬ時代に、どことも知れぬ国で、老いた領主の息子春若の世話役が不破留寿大夫で、巨漢の大酒のみの大食漢で女好き。今日も何とかただ酒にあずかろうと、蕎麦屋と居酒屋のおかみにまったく同じ内容で付け文をする。
イヤホンガイドなしでも何とか理解できる台詞ではあったが、不破留寿大夫と春若のやりとりは、なかなかに複雑だ。父である領主が亡くなり、国を背負って立つ春若は「楽をして暮らす時代は終わった。誰もがまじめに働かねばならぬ」と宣言し、不破留寿大夫を所払いにする。
不破留寿大夫は呆然と立ち尽くしながら、「時代が変われば人の思いも変わる。虚しい名誉のためにあくせく生きるなどまっぴら」と豪快に笑う。
為政者と庶民、国家と個人が相いれない様相を、「新たなる戦前か」と危ぶまれるいまの日本を照射しているようで、少し背筋のあたりが寒くなるのである。
文楽の初学者にとっては入りやすい演目であり、試みとしておもしろいと思う。しかしシェイクスピアの翻案を今後どのような位置づけにしたいのか、作り手の方向性はどのようなものなのだろうか。
なかなか足の向かない文楽だが、友人の急病によるピンチヒッターで観劇がかなった。これをきっかけに、12月の文楽鑑賞教室へつなげていきたい。
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