*シアター風姿花伝「プロミシングカンパニー」パラドックス定数オーソドックス 野木萌葱作・演出 公式サイトはこちら シアター風姿花伝 21日で終了(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25)
1999年の初演から、2004年、2011年と再演を重ね、今回で4演目となる本作を、自分は2011年3月10日、東日本大震災の前日に観劇した。上記リンクの10である。大地震と津波、そして福島第一原発事故によって、これまでに体験したことのない混乱の日々が始まることなど、まったく想像もしなかった日のことだ。このときは、演劇の上演に使うには少々特殊な会場であったせいだろう、その雰囲気に心身を慣らすのに思いのほかエネルギーを消費したらしく、話の大筋はともかく、舞台の細部についてははっきりした記憶が残っていない。
1982年2月に起こった日本航空350便羽田沖墜落事故を題材に、同機の機長(小野ゆたか)と、起訴された彼につけられた弁護士(井内勇希)の4度にわたる接見が描かれる。中央の演技エリアにはテーブルを挟んで椅子が2脚、客席はそれを三面から囲む形である。舞台奥(客席が設置されていない面)に、同じようにテーブルと椅子2脚があり、俳優の楽屋ほどではないが、テーブルには水や目薬などが置かれている。1場終わるごとに、機長と弁護士役の俳優は後方の第2エリアに下がり、水を飲んだり目薬を差したりして、次の場に臨む。といって俳優は完全に休んでいるわけではなく、役の「気」を濃厚に漂わせつつのひと息である。いわば緩と急であり、本舞台でのやりとりからしばし離れ、役の続きとも、素の俳優ともつかない境界線上の状態を見せることによって、精神のバランスを崩した人の心の奥底を、より客観的に示そうとする意図とも考えられる。
機長の精神がどのような状態なのか、弁護士はそれを見極めようと懸命になる。両者のこの攻防が本作の軸である。機長役の小野ゆたかは、どこまで本気なのか判断しかねる様相、突如として、あるいは徐々に変容していくところが不気味であったり、ユーモラスであったり、それはすなわち井内勇希演じる弁護士の困惑や躊躇、怒りとなって表出するわけで、ふたりの俳優の持ち味が活かされ、見ごたえのある会話劇(そうとうにずれてはいるが)となった。
観劇したのは千穐楽。カーテンコールの拍手が長く続いたため、「ダブルコールか」と身を乗り出したが、主宰の野木が登場し「1回なんです」と潔く締めくくった。7年前の頼りない観劇の印象を補って、確かな手ごたえを得ることができ、まだ猛暑のほてりの残る目白通りを嬉しく帰路に着いた。
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