因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団劇作家 リーディングミュージカル『ヴェガとアルテオ』

2021-11-23 | 舞台
*有吉朝子作 平戸麻衣演出 くぼなつみ音楽・ピアノ わだかよ美術・衣装 公式サイトはこちら 築地・汐留 BLUEMOOD 23日2回公演 劇団劇作家公演観劇記事→(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10) 

 有吉朝子作品は先月「劇読み!サバイバル2」の『山月記後夜』後、早々に今回の「リーディングミュージカル」観劇となった。会場のBLUEMOODは「ライヴハウス&レストラン」である。感染状況がかなり収まった現在でも一つ置き、あるいは間隔を取った座席、客席内での飲食は厳禁、会話も控えることがもはや通常となった身には、テーブル席左右前後いっぱいの観客、ドリンクもお料理もOKの空間はもちろん、ステージに譜面台がたくさん立ち並ぶ様子にも圧迫感を覚え、観劇前の精神状態は実はかなり下降気味であった。

 演奏者と出演者が登場するとステージはますます狭く、マイクを通した第一声がいささか強く聞こえて、このスペースであっても生の声ではないことを残念に思ったのだが、すぐに劇世界に引き込まれ、開演前の恐怖心や警戒心も杞憂となった。それはひとえに舞台の充実によるものである。以下その印象を…。

 ヴェガ(春日希)はじめ、太陽(吉村直)、月(神由紀子)、天の帝(神田麻衣)たち天上の人々と、生糸や織物、農業で暮しを立てているアルテオ(吉田連)とその家族や友だち、王女(米田佐和子)や女官長(神田)、大臣(西原純)たち地上の人々が、ヴェガとアルテオが恋に落ちることによって交わり、そこに人間同士の諍いや自然災害が絡む。自然と人間の共存は可能なのか、人間のエゴは消えず、争いはどうしても起こってしまうのか等々、正解の出ない問いを投げかけながら、困難な状況において、それでも夕焼けは美しく、太陽の輝き、月のやさしさ、雨も風も、人間の目には見えない天上の人々の働きによる恵みではないかと思わせる。実に壮大な物語なのである。

「リーディングミュージカル」という形式の通り、出演者は譜面台に台本を置いて演技をし、歌を歌うが、ほとんど台本を目から離して客席をしっかりと見ている。全員立派な衣装を身に着け、二役を演じ継ぐ俳優は帽子や被りもの、スカーフなどの小物でアクセントをつけ、本式の上演でも遜色ないほど充実した拵えである。

 物語の核となるメロディが繰り返し歌われて観客の耳に馴染むことによって、お話の流れや人物の相関関係、背景などがわかりやすく伝わる。10人の出演者の全員が演技、歌ともにきちんとした技術を持ち、安定感のあるステージだ。青年劇場のベテラン俳優吉村直の歌唱を始めて聴いたのだが、ストレートプレイと変わらぬ温もりと艶のある歌声だ。美しく優しい月と男前の女商人ファン二役の神由紀子も堂々たる貫禄で、吉村と良きコンビネーションを見せる。思うに、このお二人で『レ・ミゼラブル』のテナルディエ夫妻はどうだろう?と楽しい妄想が沸く。

 劇中ト書きも読まれるが最小限に抑えられており、「リーディング」の要素よりも「ミュージカル」が前面に出されている。「リーディング」でこれだけ充実しているのだから、ぜひ本式の上演を!と思わず前のめりになったが、いや、むしろ「リーディングミュージカル」の形式を探求する方向性もあるのではないか。たとえば全員がお揃いのシンプルな衣装をつけ、役柄や場面に応じて小物を加える程度にしても混乱しないのではないか。それならばもっと小さなスペースや学校公演などにも対応でき、先日視聴したMSP『ロメオ、エンド、ジュリエット』のように、さらに「コンパクトでポータブルな」バージョンも可能と思われる。

 物語のトーンにいささかそぐわない言葉(アイディア、マジ、ヤバいなど)が気になったが、ぜんたいを味わい、楽しむことの妨げにはならなかった。終幕に高らかに歌われる「おめでとう誕生日 7月7日の祝祭日」のメロディが、ずっと心の中で響いている。2021年11月23日は、リーディングミュージカル『ヴェガとアルテオ』の誕生日となったのだ。その大切な日に立ち会えた幸運を嬉しく思い、客席から祝福を贈りたい。
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