因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

shelf ×modelT prd. #2

2008-12-01 | 舞台
 矢野靖人監修/構成・演出 公式サイトはこちら 11月10日から12月10まで毎週月曜日 池袋のNo Smoking Cafe modelT
 企画コンセプトは「声と、物語と、対話」とのこと。立教通りは初めて足を運ぶ場所である。奇跡的に迷わないで辿り着けた。すぐ近くの立教大学にはクリスマスの美しいイルミネーションが施され、礼拝堂からはパイプオルガンの演奏が聞こえてくる。その手前の通りに、小さなカフェmodelTがある。店に入ると左側に椅子やテーブル、ソファがあり、右側が俳優が演技するスペースなのだそうだ。予想していたより狭い。一瞬迷ったが、中央最前のテーブルにかけた。
 小さな空間で俳優が語り、演じる。それを観客が聴き、みる。そこでともに過ごす時間、生まれる空気を味わい、楽しむ。いわゆるリーディング公演と違うのは、俳優が手に台本を持たずに語ることである。この日のプログラムは夏目漱石の『夢十夜』の「第一夜」にはじまり、芥川龍之介の『仙人』カフカの『父の気がかり』からイメージされたダンスパフォーマンス、俳優のオリジナル一人芝居と、最後は再び漱石の「第三夜」に戻り、「もうひとつ行けそう」ということで、『蛇』で終わった。ここまで客席が近く、装置も小道具もない、しかもいくら短編とはいえ、台本を持たないで話すのは、俳優にとって相当に難しいことだと思う。実際わずかに台詞を噛んだことで客席も俳優も緊張が緩んでしまう場面もあった。路地裏とはいえ、カフェ周辺は人通りが多く、表からの騒音も結構聞こえてくる。しかしお芝居の上演とは違った空気は刺激的で、充実した時間を過ごすことができた。

 開演前は何が始まるのか不安もあったが、控えめな照明や音楽は心地よく、主宰の矢野靖人はじめ出演俳優さん、スタッフの方々が来訪者が打ち解けてリラックスできるように自然な気配りをしてくださって、次第にゆったりとした気分になれた。この雰囲気作りはなかなかできないことだと思う。身内客の多い公演はとかく空気が緩みがちだし、そうでない観客との温度差のために、上演そのものを楽しめないこともあるからだ。

 池袋にはなかなか足が向かないのだが、一度で大好きな場所になった。自分がみたものは今夜だけのものではなく、その俳優にとっては過去からの積み重ねであり、同時に今後に向けての新しい挑戦の姿勢を示すものである。観客にしてもその過程に立ち会うことになり、この夜から先を大いに楽しみにできるわけだ。この次も是非足を運びたい。個人的希望としては寺山修司の『赤糸で縫い閉じられた物語』や、向田邦子の短編などを聴きたいと思う。
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