因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

俳優座劇場プロデュース『空ソラの定義』

2008-12-13 | 舞台
 青木豪作 黒岩亮演出 公式サイトはこちら 俳優座劇場 21日まで
 題名の「空」次にカタカナで「ソラ」とあるが、普通に「そらのていぎ」と読む。青木豪の新作戯曲を青年座の黒岩亮が演出した。主演はナイロン100℃の松永玲子である。自分は松永の出演作をたくさんみているわけではないが、松永の演技にはある型がある。なぜその場面でそうなの?とぎょっとするような台詞まわし、動作をするのである。それがおもしろいのだ。決して作品を壊しているわけではなく、本人の資質と作品の性質を考えた上で、充分に演出家が配慮した演技なのだろうと思っている。「暴走する芸達者」とでも言おうか。パンフレットにナイロン100℃主宰の劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロビッチが寄せた文章は、松永の魅力について実に的確に表現している。青木豪は夏のグリング公演『ピース』で、猫のホテルの佐藤真弓を起用している。佐藤が普通の女性を演じているのをみたのはこれが初めてで、松永玲子もいつものような演技はしない。少々毛色の変った女優を敢えて普通の役柄を演じさせることで、違う演劇的効果を探っているのかもしれない。

☆普通の日常を自然に舞台に提示した上で、そこに不意にさざ波が立つ。それが人々をどう動かし、どのように収まっていったかが丁寧に描かれた作品です。このあたりからご注意を☆
 
 青木豪はとても恵まれた劇作家だと思う。自分の劇団グリングに気心の知れた実力派の俳優がいるだけでなく、文学座、演劇集団円はじめ、今回の青年座、民藝など、自分の作品を優れた舞台作品として作り上げるための作り手、支え手がたくさん存在する。本作で最も目をひいたのは劇団民藝の塩屋洋子であった。失礼ながら自分はこの方のことを存じませんでした。奈良岡朋子に似た声と雰囲気を持つが、自分の個性を見事なまでに抑制して、ほとんど顔色ひとつ変えず、淡々と演じ抜く。

 この舞台がどういう話なのか、登場人物の関係がどうなのかを書かないと、今回の松永玲子の魅力や塩屋洋子の質実な佇まいを伝えることができないのだが、「話の内容をばらす」こと以上に、まだ今回の舞台に対する気持ちが温まっていないのだ。終演後、見知らぬ女性から突然、「この近くでピカソ展をやっている。もしよかったらチケットがあるので行きませんか?」とお声がけをいただいた。時間はあったのだが、この舞台のことをもっと考えたくてお断りしてしまった。せっかくなのにごめんなさい。

 舞台の季節は12月である。内容がクリスマスシーズンにふさわしいのか、まったく関係ないのかよくわからないが、ひと休みに入ったカフェで店内に流れるクリスマスソングを聞きながら、いろいろなことを考えた。味わい深い舞台であった。
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