因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団おおたけ産業5月公演『はこぶね』

2018-05-28 | 舞台

*屋代秀樹(日本のラジオ 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10)作 大竹匠(劇団おおたけ産業)演出 劇団公式サイトはこちら 新宿眼科画廊スペース0 30日で終了

「神さまの声が聞こえてくるようになったため、信者4人くらいの新興宗教を何となく流れで始めることになったニートの青年と、彼を信じることにした人々の短いお話」。日本のラジオ公式サイトにある通り、神さまの声が聞こえて、その人の前世がわかる若者が何となく教祖のようになり、自宅に人が集まってくる。同居の姉は宗教にはみごとなまでに関わっておらず、しかし弟のことは好きでよく面倒を見ており、信徒たちにも「弟の友だち」として普通に接している。信徒の意識にも強度差があり、真剣に修行しているもの、気楽にやっているもの、教祖を本気で慕うものなどがいる。ある日信徒の一人が見学の女性を連れてきたことから、大学のサークルよりも緩そうな「友だち同士教団」風のコミュニティが軋みはじめる。

 冒頭、姉は旧約聖書「創世記」を朗読している。人間の堕落に絶望した神は洪水で人間を滅ぼそうとし、この世の動物すべてを一つがいずつ船に乗せるよう、ノアに命じるくだりである。まさに今回のタイトル『はこぶね』だ。しかし平仮名で書くとどこかファンタジーのようであり、目の前で鼻呼吸をしている若者たちの向うの何かを象徴しているのかとも思われる。

 カルト集団のような荒っぽい修行や強引な勧誘、反社会的行為は皆無である。教祖とされる若者もおっとりと優しい風情で、仕送りと姉のバイトでようよう暮らしている。攻撃的なところもなく、どこにでもいそうなニートである。ただそれだけに、この社会においてあまり特殊な経緯も理由もないまま、「それらしい」コミュニティが生まれる可能性を暗示しているようでもある。

 見学にやってきた女性はとても可愛らしく、何より信徒たちに比べてノーマルである。しかも彼女の夢診断とともに、前世が教祖に見えることで打ち解けたとあっては、その後の展開はじゅうぶんに予想できる。恋をしたら教祖も普通の男性に戻ってしまい、コミュニティは崩壊したらしいというのが本作の顛末だが、おもしろかったのは、教祖の姉の立ち位置と性格である。弟がニートのあげく新興宗教らしきことを始めたにも関わらず、平気そうに見えるのだ。前述のように弟をとても大切にしており、信徒たちがやってくると、ほとんど弟の友だちが来たのと同じ感覚で「チャイ飲む?」、「じゃあ、あたしバイト行ってくるから」とまことに自然体で接している。そして折に触れて旧約聖書を朗読するのは、弟のしていることを理解したいためなのか、といっても体操しながら読んだりと、どの程度本気なのかは計りかね、この姉のほんとうの気持ちがどこにあるのかは、最後までわからない。

 作りようによっては、シビアな社会派ドラマになりそうな題材だ。人物もそろっており、ストーリー運びも巧みである。だが演出の大竹匠は屋代秀樹の作風、作劇の意図を的確に掴み、舞台を作り上げた。さらりと軽く、しかし決してふざけすぎない。素直で誠実な姿勢が感じられ、気持ちの良い一夜となった。

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