*しのみや蘭脚本 徳武詩野作・編曲 大堀茜演出 林なつき振付 公式サイトはこちら 8/23,24イマジンBスタジオでプレ公演ののち、 8/30,31武蔵野芸能劇場で本公演
主催のミュージカルスクエアは、子どものためのミュージカルスクールである。小学生から高校生まで、歌とダンスなどをレッスンして、年1,2回の公演、年2回の成果発表会を行う。プロのミュージカル俳優の養成ではなく、子どもたちが楽しみながら成長するための学校だ。しかしお金をとって公演をする以上、「ビスケット」と「ミルク」のダブルキャストによる配役もきちんと組まれている通り、一般的な「お稽古ごと」とは一線を画するものがあるのではないか。
来週の本公演を前にしたプレ公演を観劇した。場内は家族や知り合いがほとんどと思われるが、ぎっしり満員の盛況である。
プロの演劇公演にも、大劇場でのいわゆる商業演劇もあれば、20人足らずののスペースで行う小劇場演劇もある。それに加えてアマチュア演劇に社会人演劇 (1,1',2,3)、今回のように発表会的な公演もある。観劇、論考するさい、公演の性質をある程度は考慮に入れる必要もあるだろうが、演劇をみることにかわりはない。どんなところがよかったか、問題がある場合、どこをどのようにすればもっと楽しめるかを考えることに対して必要以上に遠慮したり、逆にあまりに手厳しくなる必要はないと思う。なのでできるだけいつもどおりに書きたい。
とは言ったものの、やはりいつもとは勝手がちがいますね(笑)。
出演は小学校1年生から高校生までの子どもたちに、母親や先生役など、大人のプロの俳優も数人加わる。これまで何度か舞台に立ったことのある子どももいれば、今回が初舞台の子もいる。顔立ちや背の高さ、得意なのは歌かダンスかなど、個性や適性によって実年齢と役柄の年が逆転している配役もあったが不自然なところはなく、適材適所の好キャストである。
残念だったのは、男の子がみごとにいなかったことだ。ミュージカルスクールの生徒は女の子が大多数と予想はつくし、かりに男子がひとりかふたりで女子に混じるとしたら、お互いやりにくいかもしれない。女の子もがんばって男の子役を演じており、とくに不自然なところはなかったが、何とか3分の1か4分の1は男の子がいる舞台にならないものだろうか。そのほうが脚本や演出、演じるほうもおもしろいと思うのである。
おおぜいの子どもたちに歌とダンスと演技を教え、1時間を越える舞台に立てるように指導する先生方の忍耐は察してあまりある。しかしおそらく苦労というよりは、ご自身も楽しみながら、子どもたちの変化や成長を願って地道な努力を継続していらっしゃるのではないか。それはステージの子どもたちがみないい表情でじつに楽しそうに演じているところに感じとれる。
プレ公演用の当日パンフレットには、出演者ぜんいんのプロフィールと抱負などがきちんと記されており、子どもたち一人ひとりを大切に育てて舞台を作っているこのスクールの姿勢がうかがわれる。それにしても子どもたちはがんばりやさんが多いな。なかには今回初舞台の小学一年生が、「おきゃくさんがかえらないようにがんばります」と決意表明をしていて、いや涙ぐましいというか。「がんばらないと、お客さん帰っちゃいますよ」と言われたのかな。
ソロを歌う子どもがいずれも美しく伸びやかな声質で、とても丁寧な歌唱をしていたことが心に残る。いっぽうで台詞が聞きとれない箇所が散見しており、歌とダンスに加えて堅実な台詞術の必要が感じられる。
本作は人間と犬が心を通わせる物語である。犬役の子どもたちも服装やメイクは人間と変わらず、舞台装置はじめ大道具や小道具をほとんど使わずに学校や公演、ペットショップや工場など複数の場面で展開するため、多少混乱するきらいはあったかもしれない。
しかしこちらの視線、気持ちを素直に舞台に持ってゆけたのは、前述のように子どもたちがとても楽しそうに演じていたことや、一人ひとりに配慮した脚本はじめ演出、振付、作曲など作り手の配慮の賜物と言えよう。
お稽古ごとはほかにもたくさんある。その子が楽しくやれるなら、野球でもピアノでも将棋でも俳句でも何でもいい。でもそのなかからお芝居を、ミュージカルを選んだのは、やはり何かの導きがあるはず。
プロ、アマチュアの枠組みを越えて、演劇の可能性はさまざまなところにある。自分が楽しむこと、多少つらいことがあってもがんばれること、その様子をみて喜んでくれる人のあることを、小さな人たちが心にしっかりと刻み、豊かな人生をおくってくれることを願っている。
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