*小西耕一作・演出 公式サイトはこちら 東中野 RAFT 22日まで (1,1´)
ひとり芝居なのに女優の菊地未来と共演、ならば「ふたり芝居」ではないのか。本公演のチラシやネットの情報をみて疑問に思う人は多いだろう。自分もそうであった。しかし観劇後、これはやはり「ひとり芝居」なのだ、それも「小西耕一のひとり芝居」以外のなにものでもないとの認識を強くした。
菊地未来は7月のJACROW『カルデッド』、8月のガラス玉遊戯『癒し刑』につづく、3ヶ月連続の出演になる。「ひとり芝居における共演者」というむずかしいあり方を自然に示していて、好ましい印象をもった。作品に対する理解と作者への共感あってこそであろう。
前回と同じ東中野のRAFTを、今回は横長に使った。つまり劇場に入って手前に客席、奥に舞台ではなく、なかに入ると右側が舞台、左側が客席になっている。観客の出入り口が、登場人物の出入りにも使われる。中央にベッドくらいの大きさの台が置かれ、左右に椅子が一脚ずつ。非常にシンプルなつくりである。
主人公の嶋田倉一(小西耕一)は高校の化学の教師である。アニメの声優をしている森下佐恵子(菊地未来)という恋人がいて、彼女の妊娠を機に結婚した。互いに愛しあい、相手を必要としている。幸せの絶頂。しかしおなかの子どもについて大きな問題が起こり、産むか産まないか、夫婦の話し合いは平行線をたどり、決裂する。
彼の担当科目が化学というのはひとつ伏線であり、彼女の妊娠もまったく予期しないことではない。これはみてのお楽しみだ。
ぜんたいの印象は5月の第二回公演『既成事実』と重複するところが多いので、ここでは記さない。しかし本作は『既成事実』の続編ではなく、まったくべつの話だ。俳優・小西耕一みずからが書き、演出した舞台は、前回とはちがう匂いで観客を予想もしなかったところへ連れていく。
観劇前に楽しみにしていたのが、当日リーフレット記載の「ご挨拶」だ。小西耕一自身のことがことこまかにたくさん書いてある。上演前に読むと支障があるかもしれないが、それでもおもしろいので(失礼)、読みはじめると止まらないのだ。
ところが開演前の場内が非常に暗いために、まったく読めなかった。多少明るい最前列に移動するか、携帯電話の明かりで読めなくもないが、あまりスマートではないと思いなおした。
今回は「みてから読む」ことに。でもだいじょうぶだ。受けて立てます。
前回は恋愛話だったが、最新作では主人公が早々に結婚した。しかも出生前検査が物議をかもしているなか、子どもを持つことの選択に悩む夫婦とは、ずいぶん重苦しい話を持ってきたものだ。結婚したものの、あっという間に挫折する主人公。どちらにしても辛い選択を迫られるわけだから、夫婦どちらが正しいともまちがっているとも言えない。
序盤で早くも急展開した本作は、中盤、終盤とゆるむことはない。
この舞台を誰よりも必要としているのは小西耕一自身である。過去の破局した恋愛へのこだわりから逃れ られず、過ちと後悔の多い自分を恥も外聞もなくさらけ出し、いや待てよ、もしかすると作り手のテクニックとして、そのように「みせている」のかもしれず、疑いはじめると、当日リーフレットや小西のブログに書いてあることもすべてが真実ではないのかもしれない・・・などど妄想がひろがる。
自分を受け入れず、愛してくれない相手が幸せになることが納得できない気持ちはわかるけれども、こんなことをしては元も子もない。だから嫌われるんだよ、っていうか犯罪だよ・・・などというのはまったく野暮であり、じっさいそんな気持ちにもならない。相手への恨みを作品において晴らしている、芝居によって代理戦争をしているかのような暑苦しさが、どういうわけか舞台からは感じられないのである。内容はディープであるし、これだけのものを書いて演出してしかも出演するとなると、心身ともに大変な苦しみがあると想像するのだが、本人は本人、作品は作品だとどこかすっきりと割り切っている印象があり、これは不思議なことだ。
劇作をする上で、小西がこれらの点をどのように意識しているのか、じっさいのところはまったくわからない。
帰りの電車のなかで、筆者が当日リーフレットを食い入るように読んだのは言うまでもない。なるほどなるほど。そういうことだったのか。
裏面には早くも来年2月の第四回公演『蜜月の獣』の予告が掲載されている。しかもあらすじというかプロットもなかなか濃厚で、またしてもコニシタケシくんだか、シマダソウイチくんだかの恋愛にまつわる修羅場らしい。
今度は主人公が結婚して子どもも無事生まれたとしよう。ところがその子が同級生のいじめによる自殺に関係していたり、同居する老親を妻が虐待していたり・・・などなどこれらは筆者の凡庸な想像である。
「小西耕一のひとり芝居」なら、まだまだもっととんでもないことをみせてくれるにちがいない。
小西耕一さん、この意気でつづけられたし。客席の筆者もまた、この舞台を必要としている一人なのだから。
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