因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ第38回公演『OUR TOWN わが町 新宿二丁目』

2013-08-27 | 舞台

*関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢駅前劇場 9月8日まで 9月15,16日札幌公演あり(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13
 今年はじめての試みだというプレヴュー公演にでかけたところ、受付で「もろもろ事情で開演が間に合わず、公開リハーサルとして行います」との説明を受ける。一昨年の『ハッピー・ジャーニー』のときは照明のトラブルで開演が遅れ、どうも因幡屋は行く日が悪いらしい。いや因幡屋が行くからこうなるのか?・・・。しかしあのときもアクシデントが吹き飛ぶような楽しさを味わえたのだからと気を取り直し、列にならんだ。19時45分に開場、当日リーフレットも間に合わなかったそうで、客席に配布されたのは配役表のみ。主宰の関根信一から本作についてソーントン・ワイルダーの『わが町』がベースになっていること、演劇集団円公演の『わが師わが町』、名優中村伸郎さんのことなど若干の解説を聞いて、観客の入場が終わった20時ころ開演となった。客席に動揺やいらだちはない。

 舞台には白木の椅子が数脚あるのみ、俳優はぜんいん白いシャツに黒のパンツというシンプルなつくりだ。サブタイトルが示すとおり、ゲイの町である新宿二丁目に吸い寄せられてくる人々、ずっとそこに住まう家族、生きる糧を得るために根を張る人々の様相を縦糸に、江戸時代から2013年の今日まで町の変遷を横軸に描く。

 数百年の時間を描くのだから、7人の俳優は何役も兼ねることになる。主軸になるのは1987年に登場する大学生高橋大地と彼の友だちの小森健一だ。健一の家は新宿二丁目にあるごく普通のサラリーマン家庭であり、この町がゲイバーはじめ、その手の店が軒を連ねる一方で、日常生活も同じように営まれていることをみせる。近所のコンビニへたばこを買いに出た健一は、二日酔いに苦しむ大地をみかける。大地は昨日から二丁目のゲイバーでバイトをはじめたのだ。

 配役表に「高橋大地」の名前をみたとたん、胸が迫った。フライングステージの数多くの公演で大地という名の少年を演じてきた羽矢瀬智之は今年4月に亡くなり、最新作の舞台に立つことはなかった。自分がはじめてフライングステージの舞台をみたのは、2005年夏の『Four Seasons~四季~』であり、それから昨年の『ワンダフル・ワールド』まで、彼は必ず舞台にいた。今年の夏もきっと会えると信じていた、というよりいなくなることなどまったく想像もしていなかったから、いまだに彼の不在が信じられない。今回だけおやすみで、来年は出演する。そんなふうに思ってしまうのだ。

 ワイルダーの『わが町』は少年と少女が恋をし、輝くような喜びをもって結婚式を挙げる前半から一転、数年後お産がもとで亡くなった妻の葬儀に終わる。いくつかの座組みでみたことはあるが、実はいまだにわからない。作品そのものがというより、多くの演劇人がこの作品に触発されて、さまざまな舞台を生みだしていることがぴんとこなかったのである。
 今夜の舞台をみて、じゅうぶんな理解にいたらないまでも、生まれ育ったということだけでなく、自分の人生の大切な時間を過ごしたこと、大好きな人と出会ったこと、さまざまな思いが行き交う「わが町」新宿二丁目に対する作り手の思いを、自分なりに受けとめることができた。生者と死者がまじわる夏、仲間の羽矢瀬智之を思いながら、しかし過度に感傷的になることなく、温かで好ましい舞台であった。
 前述のように俳優が何役も兼ねるつくりだが、混乱することはない。

 「間に合わなかった」ことは俳優の台詞に如実にあらわれており、いつもは達者な俳優ですら言いよどんだり、発語のタイミングがぶつかったり、ひやひやする場面が散見する。しかし決定的なほころびや、劇ぜんたいの味わいを著しく妨げることはなかった。
 おそらく明日の公演からはぐっと精度のあがったものなることだろう。いや、なってもらわねば困ります。

 なぜ新宿二丁目がゲイの町になったのか。江戸の宿場町、敗戦後いわゆる「赤線地帯」となったことや、その赤線撤廃後、この町がどう変化していったかを、時空間をいろいろに行き来しながら、最後は2013年、町の人とゲイたちがともにつくる夏祭りで終わる。
 それこそ感傷的な言い方になるが、羽矢瀬智之もきっとこの舞台をみている。そう確信した。

 これは取り急ぎの観劇記である。フライングステージの「わが町」は、自分の心にさまざまなものを投げかけた。それを受けとめて、自分のことばとして投げかえすために、もう少し落ち着いて考えたい。この日の舞台に出会えてよかった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ガラス玉遊戯vol.7『癒し刑』 | トップ | アロッタファジャイナ番外公... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事