*鈴木アツト作・演出 公式サイトはこちら 新宿タイニイアリス 27日まで (1,2,3,4 5,6,7,8,9)
本作が初演されたのはは2005年、自分がはじめてみたのは2008年の再演で、今回と同じく「突然番外公演」と銘打たれたものであった。物語の大枠は同じだが、配役が大幅に変わり、人物の設定も若干変更されているようである。この自信なさげな言い方は、登場人物の性格や物語の流れや個々のシーンなど、観劇当時の自分の記憶があいまいなことに愕然としているためだ。2008年の舞台もじゅうぶん楽しんだはずなのだが。
鈴木アツトが自分の舞台を作る上で、女優の龍田知美を得たことは非常に大きいことを実感した。再婚した今の妻に追い出された元夫が、引っ越し費用の無心にやってきた。彼女は好きな人ができて、その彼がもうすぐうちにやってくる。気が強く、元夫を完膚なきまでに叩きのめすが、新しい恋を得たことが嬉しく、今度こそは幸せになりたいと願っている。公演中なので物語の詳細は書けないが、終盤になって照明が少し暗くなり、結婚生活に疲れ果てた過去と思われる場面での表情など、胸が痛くなるようであった。
また今妻を演じる岩崎恵は唯一前回と同じ配役であるが、KAKUTAの桑原裕子を思わせる言いたい放題に暴れまくる我がまま作家が、最後に気弱になってホロリとさせる。これまでさんざん離婚再婚を繰り返し、そのたびにペンネームを変えているのは、毎回本気で相手を好きなのだろう。最初から別れようと結婚する人はいないのだから。
一方で元妻の姪(前回は妹だった?)とピアノ教師の関係や、バイト仲間で姪のことを好きな男の子が物語にしっかり食い込んでこない点や、今妻にかかりっきりの編集者3人の使い方が少々勿体ないところもあって、もっと人物や場面を刈り込んで凝縮した作品になるのでは?と思った。が地下鉄の駅を出て歩きながら次第に思い直していった。今年鈴木アツトは2本の新作を発表したが、そのいずれもが目を見張るほどの新境地を開くものであった(『匂衣』、『霞葬』)。来年新作の舞台を最も期待している劇作家である。その活動のなかに、敢えて過去の作品を上演することの意義を考えた。新作に比べれば、筆が弱かったり迷いがあったりもする。しかし新しいステップを踏み出す前に、この舞台があったことを考えると、新作をみる楽しみが増すのではないかと。
書きたいこと、書けることを心のなかにまだまだたくさん抱えている劇作家であると思う。それはもっと深く痛く、苦いことかもしれないが、鈴木アツトの描こうとしている世界を立体化できる新しい俳優との出会いがあること、今後もさらに飛躍、変化の兆しが予感されることが、今夜の観劇の記憶をいっそう明確なものにした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます