因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

アル☆カンパニー『冬の旅』公開読み合わせ

2011-01-23 | 舞台番外編

 平田満率いるアル☆カンパニー第8回公演『冬の旅』(松田正隆作 高瀬久男演出)が3月に行われるのに先立ち、川崎市アートセンター×アル☆カンパニーコラボレーション企画第5弾として、本作の公開読み合わせが行われた。川崎市アートセンター アルテリオ小劇場 23日のみ 抽選で150名を無料招待。

 案内のDMには「読み合わせ」とは、俳優が芝居を台本をはじめて一堂に会して声に出して読むものであること、それを観客に公開することで、客席の反応や意見を参考にして、より台本を練り上げ、本公演に活かすための試みであることが明記されている。

 芝居をまったくみない人に「リーディング公演」について、「本式の上演ではなくて、俳優が台本を持って読む形式。ある意舞台を作る過程を見せるもの」と説明したところ、「作りかけのものに金を取るのか」と驚かれたことがあり、「朗読劇だ」と単純に言い直したが、通じていたかどうか疑わしい。あまり上演の機会のない古典的な戯曲や海外の戯曲に対して、若手演出家と俳優がどのように取り組むかをみるのが、たとえば横濱リーディングやシアタートラムの「日本語を読む」シリーズの楽しみである。今回の試みは、リーディング、戯曲読みの形式をとって戯曲の新しい面を探るのではなく、文字通り台本読み合わせという本来なら観客に見せないものを公開するわけである。

 『冬の旅』は俳優夫婦の物語で、出演は平田満、井上加奈子のふたりだけである。舞台には椅子が4脚ならび、中央に平田と井上、上手に演出の高瀬久男、下手に劇作家の松田正隆が座る。平田満によれば、俳優はどちらも台本を一度さっと読んだだけで、声に出して読むのはこれがはじめてであるそうで、まさに稽古開始の「ファーストリハーサル」、しかも上演台本は未完だという。始まって約40分後、ほんとうにぷっつりと「ここまでです」と終わってしまった。

 作品の内容を書くのは憚られる。それはいわゆるネタばれを避けるためではなく、今日の読み合わせを聞いた限りでは、どういう物語になるのか、どんな雰囲気のものなのか、何を描こうとしているのかがほとんどわからなかったためである。読み合わせ後のフリートークで作者の松田正隆が作品の意図を語っていたが、いまひとつ具体的なイメージがつかめない。今日読んだ箇所はぜんたいの「5分の1くらい」と松田が話すのを聞いて、平田が驚いていた。40分×5倍なら、本番の舞台はゆうに3時間は超えてしまう。単純に上演時間を指すのか、物語の世界観というのか、そのぜんたいを描くのにまだ5分の1くらいしか言葉になっていないということなのか、劇作家のなかで劇世界がまだまだ構築されていない印象をもった。演出家も演出プランを語ることもできず、、「お客様の質問にも我々がまだ答えられる状態にないので」と平田が話すとおり、質疑応答の段階には至らず、何とも歯切れの悪いものであった。

 前回蓬莱竜太の『罪』の際にも公開読み合わせを行い、それが大変好評だったとのこと。そのときは敢えて未完の台本を読んだそうだ。自分の想像であるが、これは台本が間に合わなかったための未完ではなく、本公演まで結末を示さずに観客の興味を保たせるためのものではないだろうか。今回の『冬の旅』の公開読み合わせは台本の未完であることが未完という意味そのままに示されてしまった。芝居作りの現場には興味があるが、稽古場見学ならまだしも、ちゃんと劇場に観客を入れて行うのであれば、いくら入場無料のファーストリハーサルとはいっても、「みせる」「聞かせる」ことを意識したものでなければ、と思うのである。さらに「観客の反応や意見を参考にして台本を練り上げる」という意図にも、実は疑問を感じる。客席から何らかの反応、意見があったとして、プロの劇作家、演出家、俳優がそう簡単に取り入れてよいものだろうか。むろん演劇は観客の存在あって成立するもので、観客を置いてけぼりにして作り手側のひとりよがりでは困るのだが、本番までは観客がいることを想像して、その上でどうすれば伝わるか、客席も一体になる劇世界が構築できるかをギリギリまで考えて作り上げてほしいと思うのだ。

 終演後おもてに出ると道路が濡れている。久しぶりに雨が降ったらしい。雨の湿った温かな匂いに少し気持ちが和らいで帰路についた。

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2 コメント

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こんにちは。こんにゃく座の金子です。ちょっと除... (金子左千夫)
2011-02-20 17:40:55
こんにちは。こんにゃく座の金子です。ちょっと除いたら、お、高瀬久男・松田正隆さんのリーディングの記事が。聴いてみたかったなあ。高瀬さんはこんにゃく座でもお世話になっているし、松田正隆さんは大好きな劇作家(最近は難しいですかねえ)。高瀬さん、どんな顔してその場にいらっしゃったのかなあ。
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こんにゃく座・金子左千夫さま (因幡屋)
2011-02-22 15:32:25
こんにゃく座・金子左千夫さま
当ぶろぐへのお越しならびにコメントをありがとうございます。高瀬久男さんが演出された、こんにゃく座の『森は生きている』、生き生きと力強い舞台でしたね。今回については戯曲が未完のままの初読み合わせだったため、演出家としてはまだ何とも言えずといった印象を受けました。残念なような、逆に上演の舞台が楽しみなようでもあり、複雑です(苦笑)。
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