因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

スロウライダー第9回公演『Adam:ski アダム・スキー』

2007-03-19 | 舞台
*山中隆次郎作・演出 三鷹市芸術文化センター 星のホール 公式サイトはこちら 公演は25日まで この記事にはネタばれがあります。ご注意くださませ。
 スロウライダー初見。風は冷たいがよく晴れ上がった日曜の昼下がり、日当たりのいいロビーでのんびりと開場を待っていた。先入観も予備知識もなく、これからみる舞台がどんなものか知らずに。

 客席が階段状に組まれており、結構高い位置から舞台を見下ろす形になっている。手前の主舞台から少し奥側のやや高い位置に、別の空間が作られている。男性二人がテーブルをはさんで向き合って座り、片方がもうひとりに取材をしている様子だ。男は以前、ある民俗学者の門弟だった。その「先生」の死にまつわる話が主舞台である書斎で展開する。学者のうちには数人の門弟が同居しており、彼の死後、書きかけの自伝を皆で完成させようとしている。だがそれぞれの「先生」への思い、証言がことごとく食い違って執筆は行き詰まり、門弟たちは互いに混乱して争いはじめる。

 あろうことかわたしは最初の15分間眠気に襲われてしまったため、もしかしたら重要な場面を見逃した可能性もあるのだが、異質な空間に身柄を拘束され、逃げ道を塞がられたような恐ろしさにからだが固まってしまった。いったいわたしは何が怖かったのだろうか。

 血や内臓が出るわけでもなく、幽霊が出てくる怪談ものでもない。いささか猟奇的な内容とはいえ、「キワモノ」ではないと思う。恐ろしかったのは、「先生」が、死んでしまっているにも関わらず、門弟たちの精神を支配し、思考を操り、行動を狂わせている点である。門弟たちの力関係が、小さなことをきっかけにしてあっという間に逆転し、優位に立ったものが弱いものをいたぶり、弄び支配する。彼らをみている「先生」が、この空間のどこかにいる・・・。

 映画なら、さまざまな技術や手法を駆使していくらでも見栄えのする映像を作れただろう。今回の作品は、照明や音響の効果も確かにあったが、それよりも舞台で起こっていること、混乱して迷走する門弟たちの様相が怖くてならなかった。そして最後の最後のあの台詞で、観客はさらなる恐怖に襲われることになる。

 終演後、逃げるように劇場をあとにした。何かに取り込まれそうな気がして。しかしからだにまとわりつくようなあの書斎の空気は、決して不愉快ではなかった。劇場でしか、演劇でしか味わえない「ホラー体験」に、わたしは魅せられてしまったのかもしれない。

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