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役者の「卒業」を見送る
*公式サイトはこちら 浅草公会堂 26日まで
若手俳優の登竜門である新春浅草歌舞伎だが、今回出演する9人中、一番年長の尾上松也を筆頭に7人が「卒業」するとのこと。若手が次々に飛び込み、初役、難役に挑戦するこの公演は、実は歌舞伎座や国立劇場よりも楽しみに喜び勇んで出かけてゆくのだが、旅立ちを見送る淋しさを覚えたのは今年が初めてだ。実際はもっと観ているはずだがblog記事は少ない(2006年、2011年、2013年、2015年)。
嬉しかったのは恒例の「お年玉〈年始ご挨拶〉」が4年ぶりに復活したことだ。これは開演前に出演俳優が日替わりで素顔と紋付き袴で登場し、観客に挨拶することだ。始めこそ折り目正しい「口上」の調子で始まるが、そこからのマイクの使い分け、先輩方の苦労や苦心、これから始まる演目の見どころなども解説して客席の雰囲気を盛り上げるトークはみごとなものだ。14日夜の部の中村隼人は羽織袴の正装で軽やかに客席に降り、この日初めて新春浅草歌舞伎に訪れた観客に「インタビュー」を、17日昼の部の中村莟玉は公演パンフレットの宣伝を行うなど、できるものなら全員の〈年始ご挨拶〉を聞きたいと思わせる。
第一部
「本朝廿四孝」十種香・・・謙信(中村歌昇)の息女八重垣姫(中村米吉)は絵姿の武田勝頼を一途に慕いつつ、瓜二つの蓑作(中村橋之助/実は勝頼その人)に一目惚れしてしまう。恋する乙女が恥じらつつも大胆に振舞うすがたが可愛らしい。蓑作を討とうとする父やその部下たちに、八重垣姫や腰元濡衣(坂東新悟)の女性たちがどう立ち向かっていくのか。その先をぜひ観たい。
「与話情浮名横櫛」源氏店・・・八重垣姫を演じたばかりの米吉が次の幕ではお富に扮する。まったく違う役どころだが、美しいだけでなく、強請をあしらう伝法なところには余裕すら感じさせる。相手役与三郎の隼人は片岡仁左衛門に指導されて初役を務めた。お富の旦那和泉屋多左衛門(実は兄)の中村歌六が惚れ惚れするほど端正で上品。
「神楽諷雲井曲毬」どんつく・・・太神楽の荷持ちのどんつく(坂東巳之助)を中心に、親方(歌昇)、太鼓打ち(中村種之助)、田舎侍(松也)や芸者(米吉)、大工(隼人)、白酒売(新悟)、若旦那(橋之助)に子守(莟玉)と、出演俳優全員が揃って踊る一幕。俳優それぞれがぴったりの役に扮しての打ち出しは華やかで楽しい。
第二部
一谷嫩軍記 「熊谷陣屋」・・・二代目中村吉右衛門の薫陶を受けた歌昇が渾身の演技で大役熊谷直実に挑んだ。同時解説イヤホンガイドでは出演者全員のトークが紹介されるのだが、歌昇はこの役について「一生かけて演じていく」と覚悟を語っている。一生かかっても到達できるかどうかはわからない。しかし一生の年月をかけることができる。それほど豊かで深い作品であり、役どころなのだ。これからたくさんの苦労や葛藤があるだろうが、手応えや幸せもきっとあるはず。客席のわたしも一生をかけて…というほどの立派な覚悟は持てないが、出来得る限り見続けていきたい。ここでも弥陀六の歌六が素晴らしい。
「流星」・・・種之助が雷夫婦とその子ども、お隣のお婆さんの四役を踊り分け、夫婦喧嘩の顛末を小気味よく見せる楽しい一幕。
新皿屋舗雨暈「魚屋宗五郎」・・・この演目については2014年の團菊祭について書いている。松也の宗五郎は酒乱の表層を達者に面白く演じるのではなく、腹の底に「酒でも飲まなければやりきれない」という持って行き場のない悲しみとやりきれない怒りがあることが伝わる。
夜の部終演後は、若手たち全員が1階ロビーに勢ぞろいして能登半島地震被災地への募金の呼びかけ。「魚屋宗五郎」の座組は鬘も着物もそのままである。会場スタッフが懸命にアナウンスする通り、写真撮影や握手は禁止であるが、誰もが「頑張ってください」「良かったですよ」など口々に声をかけており、役者もそれに応えている。若手役者の奮闘に胸躍る一日となった。
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こちらは洋装
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