因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

サスペンデッズvol.6『片手の鳴る音』

2009-01-24 | 舞台
*早船聡作・演出 公式サイトはこちら シアタートラム 25日まで
「シアタートラム ネクストジェネレーションvol.1」と銘打って、世田谷パブリックシアターが若い演劇人の発掘と育成の場として実施した公演。30を越える公募の中から3つのカンパニーが選ばれた。選考にはパブリックシアター「友の会」の方々も加わったそうである。公演がどういう主旨で行われているかをあまり知らずに見に行ったのだが、若い才能を発見した新鮮な驚きと、それを励ます温かい気持ちや劇場をもっと楽しい場所にしたいという願い、そして選ばれた劇団側の喜びの両方が伝わってくる気持ちのよい舞台であった。
 サスペンデッズの舞台はこれが2度めになる。昨夏の公演についてはあまりはっきりした印象を持てなかった。本作は再演になるそうで、初演より大きな劇場での舞台作りには苦労があったようである。海辺の町の理髪店が舞台だが、ステージ上手と奥に船の帆を思わせる大きな布があり、室内と外の境界線を曖昧にみせている。人物の出入りも観客に見せる作りになっていて、これが効果的であったかは長短あるだろう。舞台ぜんたいが海に浮かんだ船のような抽象的な作りだが、その中には理髪店の椅子や小道具など、具体的なものがたくさん置かれている。天井が高く幅もたっぷりある劇場の空間を活かしながら、戯曲の世界と演出のバランスをとるのは難しいものなのだなと思った。

 母についての物語である。登場人物それぞれに母に対する思いがある。母を知らずに育ち、ひたすら母を求める者、母の愛情を持て余し、そこから成長していこうとする者。自らが母になり、迷いや過ちを繰り返しながら必死に我が子を育てる者、母に愛されなかった体験から、自分が母になることに激しく悩む者。それぞれの人物の背景や現実はちょっとどうかと思われるほど複雑多様である。しかし作り過ぎ、盛り込み過ぎにみえない。ごく日常的なやりとりの、ちょっとした一言や表情や仕草で少しずつ見せていく手法に対して俳優が辛抱強く応えているから
だと思う。

 ちょっと困惑したのは台詞が聞き取れない箇所が結構多かった点である。通常の公演に比べて広い舞台空間のせいだったのだろうか。また住居である二階の階段から一階の理髪店に降りてくるとき、登場人物の多くが靴下のまま床におりて、場合によってはそのまま店内を歩いて靴を履く動作があることだった。しょっちゅう掃除はしていても髪の毛の落ちている床の上を靴下で歩いたりはしないと思うのだが。

 さて次週のtoi公演にも俄然食指が掻き立てられてしまった。当日券予約のシステムを使って頑張ってみようか。
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