因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

Unit航路-ハンロ- マダン劇『蛇の島』、『古俗に遠吠える狗たち』

2012-03-18 | 舞台

*金哲義作・演出 公式サイトはこちら 下北沢「劇」小劇場 18日まで
 劇団May(1,2,3,4,5,6,7)の金哲義と劇団タルオルム(1)の金民樹のUnit『航路-ハンロ-』は2009年に結成された「二人芝居ユニット」である。若手演出家コンクール2010最優秀賞受賞記念公演として、ユニットとしては初めての東京公演となった。

 客席最前列と同じ高さに演技スペースが作られ、舞台上にもいくつか席がある。床一面に大きな布がくしゃくしゃに敷きつめられていて、金哲義によるおなじみの?にぎやかな前説があるものの、張りつめた雰囲気が漂う。
 「マダン」とは「広場」を意味し、観客が舞台を囲んで俳優と声を掛け合ったり、俳優が客席に入り込んで会話をしたり、即興の台詞や歌や踊りなど、舞台と客席がお互いに楽しむものとのこと。
 『蛇の島』、『古俗に遠吠える狗たち』ともに30分強の作品を、15分の休憩をはさんで連続上演する。金哲義(キム・チョリ)、金民樹(キム・ミンス)を核に民族楽器による音曲、踊りやアクションが熱くぶつかってくる舞台だ。『古俗~』では途中で客席にお菓子やビールをふるまうサービスがある。マダン劇の主旨から言えばその場で食べて構わないのだが、「劇」小劇場には「大人の事情」があるのでだめだぞと指示があったほか、いささか強引に観客を舞台に引っ張り出してあれこれさせるところもあり、 一般的な「客いじり」とはまた違った趣向には好みが大きく分かれるだろう。自分にとっては恐怖である。作り手もそのあたりはじゅうぶんに心得て、おそらく面識のある人やマダン劇の心得のある人、どうにかやってしまう人を的確に選んでおり、やり過ぎることもしらけることもなく劇は進行する。このあたりの手並みはいつもながら鮮やかだ。

 『蛇の島』は済州島4.3事件がベースになっており、『古俗~』では俳優が動物(狗)に扮して故郷への思いを血を吐くような激しさで訴える。にぎやかな笑いと涙の人情劇のなかに、朝鮮民族の血と祖国の重みがずっしりと伝わってくるMay公演とは違う手ごたえの舞台である。前述のように客席を巻き込んだお楽しみ的な部分があるとはいっても、いわゆる「本編」部分には笑いも緩みもまったくない。

 はじめてマダン劇をみたのは、昨年6月の『碧(アオ)に咲く母の花』であるが、この作品は物語が明確にあって、登場人物の造形や背景をみせるストレートプレイの要素が強かった。今回の2本立てに関しては、どこに自分の気持ちを入り込ませればよいのか、終始とまどいながらの観劇となった。

 当日リーフレットには「韓国・済州島で行われる『チェジュ4.3平和マダン劇祭』に招聘されるも、金哲義が朝鮮国籍のため、入国許可が降りずに上演できずにいる」と記されている。何度も故郷に赴き、友と過ごし語りあうことができた韓国国籍の金民樹は、「沢山の想いがあって、彼は韓国国籍へ変えるつもりは無い」と記す。この簡潔な記述のなかにも、金民樹の「沢山の想い」があるはず。ともに演劇を作ろうとユニットを結成するほどの強い演劇的共感と、民族の意識はどのように異なり、影響するのかは想像がつかず、また金哲義が故郷で芝居ができる日が訪れることを、自分のようにみずからの血や祖国についての認識が薄弱な者が、あっさりと単純に祈ってよいものかとためらうのである。

 いや、でもやはり祈ろう。金哲義が作りだす劇世界が、彼の故郷に何かを運んでゆくように。
 次回このユニットが東京公演を行うのはちょうど1年後とのことだ。楽しみだ、とあっさり単純に言えない自分だが(苦笑)、心に覚えて備えてゆきたい。

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