*内藤裕子作・演出 公式サイトはこちら 田原町/ステージ円 28日まで
2005年に行われた次世代の作家シリーズの第2弾。9月に座付作家であり、green flowers(グリフラ1,2,3,4,5)主宰でもある内藤裕子、10月にKAKUTAの桑原裕子、11月に関西演劇界から角ひろみが新作を競う。まずは9月に内藤裕子の『初萩ノ花』から。
杉田家は埼玉県で農業を営んでいる。長男(山崎健二)は定年を過ぎて工場の契約社員として働きながら、父母の残した田畑やビニールハウスを守りつづけている。独身だ。ほかには亡くなった弟の妻(高林由紀子)と独身の三女(馬渡亜樹)、離婚した長女(谷川清美)と高校生のその娘(牛尾茉由)が同居している。三女は嬉々として伯父の農業を手伝い、結婚しないつもりでいる。次女(岸昌代)は嫁いで家族と東京に住む。
弟の妻には頼れる実家や親戚がないとのことだが、亡くなった夫の実家に身を寄せるというのは、珍しいのではなかろうか。
兄は無口でそっけなく、弟の妻はしとやかで優しい印象だ。三姉妹が戻ってくると姦しいのなんの。女きょうだいのある人なら、共感できるだろう。
しかしこの家族には何かわけがある。言ってはならないこと。ずっと言いだせないこと。それを示すことが、本作のひとつの目的であり、観客にとっての興味である。
東京には毎日毎晩数えきれないほどの演劇公演があって、とてもすべては網羅できないから、あれこれ悩んで予定と予算を組み、足を運ぶ。
当然「みたいもの」が最優先になるわけだが、そのつぎはどういうものになるのだろうか。
「みなくてはならないもの」という表現はあんがい意味が深くて、観劇の必然をどこにどのように持ってくるかは、その芝居によって変わってくるのである。自分の演劇歴のために、勉強として、昨今の世相を鑑みて・・・などいろいろあるが、「みなくてはならない」という気持ちが、義務や責任を越えて、自分の演劇的必然に結びつけられれば、きっと豊かな演劇体験になるだろう。
「みないほうがいいもの」。演劇の作り手の方々に対して大変失礼な言い方になるが、正直なところ、そういう芝居もたしかにあるのである。
そしてもっともやっかいなのが、「みてもみなくてもいいもの」なのだ。
みなくてもいいものをみなかったのなら、何の問題もない。また観劇後に「みないほうがよかった」とはっきり認識できれば、それはそれで良心的であると思う。その劇団、劇作家の作品を、つぎからみなければいいのだから。
みてもみなくてもいいものという芝居は、何も生み出さない。ただ虚しく、疲れるだけだ。
『初萩ノ花』は、非常に地味であるし、主役をドンと置いて華々しく盛り上がるものではない。とくに今回は、グリフラの『かっぽれ!』三部作のように、笑いがどかんどかん沸くようなものではなく、舞台の空気が熱くなるまでに時間がかかる。
長男がいつどのように義理の妹、つまり弟の妻に思いを伝えるのかが本作最大のみどころであるが、ここがあんがいあっさりというか、読めてしまう展開だ。
これを「男が女にずっと好きだったと言うだけの話じゃないか」とまとめられてもいたしかたない面はたしかにある。最後まで告げないでおくという流れでも劇として成立したかもしれない。
また長女は学校関係者であることはすぐにわかるが、教師をしていると明確にわかる台詞はなかったように記憶する。それでよいのかそうではないのか、判断ができない。
杉田家の禁忌が明かされる場面も、劇的に盛り上げてほしいということではなくて、あとひと息こちらをぐっと引きつける可能性が掘り起こせるのではないだろうか。
しかし単に話の運びを知りたいという気持ちではない緊張の高まりが、今夜の客席にはたしかにあった。はやる気持ちを抑えて、わけありの家族の様子を見守る。縁談がまとまってほしいんだがな、梨農園の長男(玉置祐也)くんと三女は、なかなかいいではないか。でもやっぱり本人の気持ちが大事だし、それより伯父さんと母はこれから具体的どうするつもりなのか・・・などなどいつのまにか「親身になって」舞台に見入っている。
そんな自分に気づいて嬉しくなるのである。
この嬉しい気持ちが『初萩ノ花』から与えられた最大の贈りものだ。あまたある演劇公演のなかで、上演されてほしいと願えるもの、必要性のある舞台だと思う。自分にとって「みておかなければならない」、「みてよかった」と思える舞台なのである。
今回も、ちょっとづつ、
爪が甘い、というか、抜けてる
ところが多い台本でしたが、
とにかく、全部を出し切りました。
円で自分らしさをつらぬけたことに
嬉しさを感じております。
まだまだですが、
これからもよろしくお願いいたします!
牛尾が4場で吹いていたのは
シングシングシング
です。ゆっくり吹くと、
呪いの笛になるようです。
コメントいただきまして、恐縮しております。
ありがとうございました(汗)。
昨日千秋楽を迎えられ、ほっと一息ついておられることでしょう。お疲れさまでした。
ラストシーンで、舞台上手に活けられた萩の花をみつめるヤマケンさんの目に涙が光ったこと、
牛尾さんのフルートと共に(笑)、忘れないと思います。
ますますのご活躍をお祈りしております。
今後ともどうかよろしくお願いいたします。