因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

PLAN39 『クドい十二人の女』

2022-11-26 | 舞台
*表情豊脚本・演出 公式サイトはこちら 富士見台/アルネ543 27日終了
 ある劇団が新作公演のために合宿を行おうとしている。集まってくるのは劇団員はじめオーディションの合格者や主宰の作・演出家「表情豊」から声を掛けられた女優たち、主宰のマネージャー、合宿所の管理人の合わせて12人だ。タイトルの通り、「クドい」女たちが繰り広げる2時間弱の群像劇だ。昨年中止となった公演に出演者が再び集結し、上演の運びになったとのこと。ひとしおであろう関係者の喜びと熱気が爆発する舞台であった。

 演劇業界の裏事情や創作現場の事情を容赦なく晒しつつ、そこに吸い寄せられてしまう人々のどうしようもない性(さが)がぶつかり合って大騒動が展開する。女たちをここまで狂わせ、混乱させる「豊さん」とは、いったいどういう人物なのかが物語の重要な軸なのだが、当人は最後まで登場しない。

 劇団生え抜き、アイドルから女優に脱皮を目指す者、殺陣や声楽の講師、謎めいた管理人、ずぶの素人等々玉石混交の女たちがマウントを取り合い、相手を「汚物」と吐き捨てたり暴力をふるったり、かと思うとべったりと甘えたり、女たちの力関係は目まぐるしく変動する。皆必死なのだろうが、それぞれに歪なものを抱えており、その中で純粋に「お芝居をやってみたい」と飛び込んできた素人がもっともまともな精神の持ち主であるところに救いがあるものの、「やがて彼女も」という不安も抱かせる。

 実際に本作の作・演出を務める表情豊は女性であるが、劇中の「豊さん」は男性という設定だ(いや、そこにも捻りのある可能性が)。自分自身を登場させること、台詞のみで人物として登場させない等は作劇の手法としてはあるものの、わが身を劇中に放り込み、女たちに崇められたり非難されたりの言われたい放題の潔さ。コメディタッチではあるが、演劇業界の自分たちを互いに突き放しては立ち上がり、また罵倒される「負のスパイラル」が執拗に描かれる。自虐色が濃厚だが、「それでもこの世界で生きていきたい」という渇望や、「生き抜いてみせるとも」という強かで不敵な面構えも感じさせ、圧倒的な熱量で劇場を満たす。
 
 タイトルが「クドい」だけあって、俳優の演技もこれ以上ないほどクドく、声の大きさ、台詞の言い方、動作の全てが激烈だ。ここまで激しくすることの効果はもちろんあるが、一方で舞台の空気が凡庸になって、笑うより引いてしまうところが多々あった。個性的な面々を揃えたればこそ、強く押し出す者、引くと見せて静かに押す者等々、もう少し抑制して緩急やメリハリをつければ…というのは野暮な指摘だろうか。

 観客は舞台を受け止めるのが役割であり、創作現場の実情や内実などの情報はあまり有効ではないと思う。いわゆるバックステージものというジャンルがある。本番を遂行するための大騒動や大混乱を乗り越え、「やはり演劇は素晴らしい」、あるいは「ここまで人間を夢中にさせながら苦しめる演劇とは恐ろしいものだ」等々、演劇賛歌ひと色ではないところにおもしろさや魅力がある。本作は自分たちを笑い飛ばしながら、その先へ行こうとしていると受け止めた。
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