☆公式サイトはこちら 川村毅演出 雑遊 27日終了 2021年冬上演の「2020年の世界」観劇の記録→1,2,3 2022年「夏」→1,2
戯曲が観客の前で産声をあげ、育ちゆくプロセスを味わうシリーズの「秋」は全9作品。ようやく駆け込んだ千秋楽の客席はキャンセル待ちの出る盛況だ。
戯曲が観客の前で産声をあげ、育ちゆくプロセスを味わうシリーズの「秋」は全9作品。ようやく駆け込んだ千秋楽の客席はキャンセル待ちの出る盛況だ。
☆Dプロ 竹田行人作『淡い月』
雨あがりの朝、高校教師の水川りん(山崎美貴)が、出席日数が足りない受け持ちの生徒・月下亜和(和田真季乃)の家を訪ね、母親と話がしたいと言う。亜和は母親はまだ寝ていると答えるが、何となく雰囲気がおかしい。やがて出た来た中学生の妹のチエ(石森咲妃)は姉と正反対で、りんへの挨拶の言葉づかいも立ち居振る舞いも申し分ない優等生である。
チラシにはりんの年齢が28歳と明記されており、演じる山崎とはいささか差があるものの不自然ではない。難しい事情を抱えた生徒を励まそうと、精一杯務めている教師を誠実に造形している。
本作はいわゆる「ヤングケアラー」の物語なのだが、サスペンスの要素も濃厚、後半から予想外の展開を見せる。椅子がひとつあるだけで、俳優はほとんと無対象の演技を行う。靴の脱ぎ履きや家の中から表にでる動作等々が少しぎくしゃくすること、時間軸や台詞の細かい点など小さく躓くところはあるが、決定的な妨げにはならない。それよりも、りんが亜和の選択を了解したかのような結末には疑問が残る。社会的な問題を告発がテーマではないと思われるが、微笑ましく見えた姉妹の確執が露呈してからの、さらなる展開があっての結末が見たいのである。
☆Iプロ 川村毅作『カミの森(仮)』
ゾンビ映画の撮影隊がカルト教団が潜む森にやってくるお馴染みの物語だが、「春・秋」とは別のシーンが描かれる。【スタートラフ・リーディング】と但し書きがされており、来年5月の完成に向けて、戯曲のひとつのピースを提示するものと受け止めた。
これまでと同じく、舞台には椅子が横一列に並び、白と黒に統一した衣装の俳優は台本を手に持って、出番になると立ち上がって前に進み出る。ト書きは読まれないので、突然ゾンビが家族に噛みつくグロテスクな場面が始まるが、やがて「カット」の声がかかる。何度も見ている形式だが、見る者に準備をさせないのは、作劇の戦略のひとつと思われる。ゾンビ映画という虚構の世界を作る人々と、現実にあるカルト教団の人々が衝突するかに見せてすれ違う様相や、虚構と現実の色合いの変容がおもしろい。本式の舞台になると、視覚からの情報が一気に入って来ると想像され、これまでのリーディングの印象を保ったほうがよいのかどうか、不安や困惑が入り混じる。「さあ、ここからどうなるか」と身を乗り出したところで終わるのが毎回もどかしくもいよいよ期待を持たせ、今度こそはと願っている。
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