*アントン・チェーホフ作 神西清翻訳 大滝寛(文学座)構成・演出 公式サイトはこちら 代々木八幡/劇団青年座稽古場 14,15日の2回公演
「日本新劇俳優協会」とは、「新劇俳優の演技の向上と職業化につとめ、新劇運動の発展を図ることを目的」として1958年にスタートした組織で、このフェスティバルは、協会の事業のひとつとして、さまざまな劇団、ユニット、フリーの俳優の研鑽と交流の場を設けることを目的に開催されている由。2日間に渡り、会員による作品発表(朗読が5~6本行われる。筆者は未見)に続く協会企画として約2時間休憩なしの『ワーニャ伯父さん』上演のあと、15分程度のトークショーが行われた。
青年座稽古場での観劇ははじめてではないが、後方の座席についたためであろうか、天井は高さがあり、奥行きや両袖にも余裕が感じられ、客席にいても圧迫感がないことに気づく。非常に居心地の良い空間で、開演前のわずかな時間に、入場の際の慌ただしさを忘れ、心身を整えることができた。長年に渡って使い込まれ、多くの人に愛されてきた劇場の持つ空気というものであろうか。
今回の『ワーニャ伯父さん』の大きな特徴は、4幕の物語を順に上演するのではなく、第3幕半ばの家族会議の場面を冒頭に持ってきたところである(倒叙法のひとつか)。また終幕において、ソーニャが自らを鼓舞し、ワーニャを慰める長い台詞の幕切れの「ほっと息がつけるんだわ」を、女性たちが華やかに発する場面があることなどである。アフタートークにおいて、演出家の意図を伺うことができたが、残念ながら観劇時の困惑を解消するには至らなかった。終幕の台詞を発するソーニャがからだを大きく動かすことも、意図やその効果をつかみかねる。
大いなる収穫は、多彩な出演陣による配役を堪能できたことだ。たとえば高橋克明(文学座)にはまだ青年のイメージがあり、意外な配役と思ったが、白髪が目立つワーニャ伯父を演じて違和感はなかった。声に十分に張りがあるだけに、若さを使い切れないうちに中年になってしまった焦燥が感じられ、終幕のうつむいた背中は、正視するのが辛くなるほど痛ましい。同じくセレブリャコーフの中村彰男(文学座)、エレーナの神由紀子(朱の会 1,2,3,4,5,6)、アーストロフの井上倫宏(演劇集団円)、テレーギンの高瀬哲朗(文学座)、ギターの生演奏に外山誠二(文学座)など、贅沢で充実した俳優陣である。これで2000円のチケット代金は破格であり、もし通常のプロデュース公演であったなら倍ではきかないはず。本協会主催のフェスティバルであればこそ、叶ったことであろう。
青年座稽古場について客席の自分が感じた印象は、作り手の方々には楽屋周りも含めていっそう濃厚であったことを、アフタートークで聴くことができた。「青年座の稽古場は、わたしたちにとっては聖地。そこで芝居ができることが嬉しい」。その喜びを客席も共有できたことが、今回の観劇の確かな手応えであった。
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