因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象-indian elephant-第25回公演 子どもと一緒に観る演劇シリーズ第3弾『メリークリスマス ハッピーバースデー』 

2019-12-13 | 舞台

*鈴木アツト作・演出 公式サイトはこちら 東中野/RAFT 15日まで 1,2,3,45,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26)2014年から始まった「子どもと一緒に観る演劇シリーズ」。『鍵っ子きいちゃん』(未見)、『子ゾウのポボンとお月さま』に続く第3弾は、クリスマスシーズンにぴったり…ではなく、みんな大好きなクリスマスが嫌いな女の子と、謎のサンタクロースのお話である。

 12月25日生まれのキミ(杉林志保)は、クリスマスが大嫌いである。なぜなら「みんなクリスマスの分しかお祝いしてくれない。私のお誕生日なのに」。おまけに両親は音楽家で、いつも忙しく演奏活動をしており、ことにクリスマスシーズンは毎年海外へ出かけてしまい、キミはひとりぼっちでクリスマスと誕生日を過ごす。ひとり眠る部屋に、サンタクロース(岡田篤弥)がやってきた。少々挙動不審だが、ふたりは打ち解け、クリスマスではなく、誕生日のお祝いをする。しかし実はそのサンタクロースは…。

 舞台は子ども部屋の作り。中央にキミのベッドが置かれ、あとは小さなテーブルくらいであったか。さまざまに工夫を凝らした小道具はたくさん出てくるが、シンプルな舞台である(西宮紀子/舞台美術・小道具・衣裳)。いくつかの歌(村上理恵音楽)をベースに、ダンスもふんだんに取り入れた楽しいステージだ。劇中に客席の子どもたちを巻き込む趣向もあるが決して強引ではなく、自然なやり方が好ましいのは『子ゾウのポボンとお月さま』のときと同じである。

 しかしながら、本作が描いているのは、大多数の人が受け入れて楽しんでいる事象に対して違和感を持つ人、周囲が楽しんでいればいるほど、それに傷ついてきた人の心の有り様なのである。

 公演チラシに同封されていた「ご案内」には、「この物語を通して、物事の一般的な印象に囚われることなく、丁寧にゆっくりと見ることによって、隠れていた本質を見逃さないことの大切さを、観客に届けたいと考えています」とある。

 物質的には恵まれているキミの生活だが、両親のどちらかが食事を作っても、もう片方が演奏の練習に夢中になり、家族3人が揃っていてさえ、皆で食卓を囲むことがないという。また泥棒サンタには淋しい生い立ちがあるようだ。写実的な物語として、前述の「隠れていた本質」に迫る作劇も可能であろう。モノクロの外国映画のような雰囲気もあって、40分の上演時間を越えて、観客にさまざまな印象を与える作品だ。

 今夜の客席には数人の小さな可愛い観客がいた。退屈せずに集中していたようであるし、終演後もラストシーンで撒かれたキラキラの紙吹雪や舞台の小道具に興味津々で、その様子は舞台の楽しさが何倍にもなるほど嬉しいものであった。小さな心には何が残っただろうか。みんなが楽しい、大好きというものに対して、もしかしたらそれが嫌いだったり、悲しい思いをしている人もいる。そこに思いが至るには複雑で成熟した思考や、人生経験も必要であろう。相手の心のうちを想像し、思いやれれば、この世はもっと優しく温かくなる。小さな人たちが、成長するこれからの日々において、キミとサンタの淋しい心が寄り添う風景を思い出してくれますように。

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