因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『シダの群れ 純情巡礼編』

2012-05-24 | 舞台

*岩松了作・演出 公式サイトはこちら シアターコクーン 27日まで
 別役実と同じく、以前はせっせと通っていた岩松了の舞台にもこのところずっと足が遠のいていた。第1作をみていない上に今回もチケット予約段階であきらめていたが、まさかの観劇がかなった。堤真一に風間杜夫、松雪泰子、小池徹平の豪華キャストに加え、演劇集団円の石住昭彦と吉見一豊らが脇を固め、昨年の大河ドラマ『江』の秀頼役が新鮮だった太賀、『深夜食堂2』の「煮こごり」の回に出演した清水優、さらに村治佳織のギター生演奏という趣向が興味をかきたてた。

 やくざの組の3つの組のあいだに起こった陰謀と共闘に、きょうだいや親子の情愛や男女のあれこれ、任侠のしがらみが描かれる3時間弱の舞台である。

 俳優はみな持ち味を発揮して魅力的であるし、バーから廃屋、病院のテラス、隠れ家と次々に舞台空間がかわる様子も滞りなく、みていて楽しいものであった。
 しかしながら前述の「ヤクザの3つの組」というのが、組の名前が観劇のあいだにきちんと把握できなかったのである。同道の友人は「どれもサ行だったからでは」と言っていたが、そうなのだろうか。そして劇中に登場せず、名前だけで示される既に亡くなった人との関係もよくわからず、そうなると彼らのあいだで揺れ動く松雪泰子演じる女性の存在も、みている自分の意識のなかで生きてこない。

 楽しんだのは確かだ。風間杜夫はさすがの貫録で堤真一も出番が多く(笑)、小池徹平も草食系の可愛らしいイメージを覆す熱演、松雪泰子は謎めいて美しく、村治佳織のギターも迫力があって、大変なごちそうをいただいた気分だ。ヤクザと役者を兼業している?荒川良々と風間杜夫の役者談義や、演劇集団円からの客演ふたりのやりとりもおもしろい。
 しかしどれも小ネタ的な楽しさであって、この芝居ぜんたいがどうであったのかをきちんと把握できたかどうかははなはだ心もとない。
 ふたりの人間が会話するには不自然なほど距離をとる場面が多い。シアターコクーンの劇場サイズを考えて「見せ場」を作る点では成功なのだろうが、本多劇場や六行会ホールでみた岩松劇の印象が心に残っている身としては、いったいなぜこの豪華メンバーがこの大きな劇場で、一流のギタリストの生演奏付きでこの話を舞台にしているのかがわからないという身も蓋もない気持ちになるのだった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 名取事務所公演『やってきた... | トップ | 因幡屋通信41号完成 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事