因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

オクムラ宅旗揚げ公演『紙風船、芋虫、かみふうせん』

2010-04-15 | 舞台

 公式サイトはこちら 渋谷のTARA 18日まで 岸田國士の『紙風船』、江戸川乱歩の『芋虫』にインスパイアされて奥村拓が書き下ろしたオリジナル作品『芋虫』、『紙風船』を現代風に演出した『かみふうせん』の3本が連続上演される約85分。演出はいずれも奥村拓。

 渋谷駅西口の複雑な歩道橋をわたって、暗い坂道をのぼる。こちらの方向に歩くのはおそらく初めてだろう。アイリッシュパブLENNONの角からさらに細い道をすすむとTARAに到着。秘密の隠れ場所のようで、わくわくする。靴を脱いで部屋にあがると、小さな演技スペースを両側からはさんで椅子が並べられている。20数席。すぐ目の前、観客の足元で俳優が演技をする。

 

 『紙風船』最初のバージョンは、夫婦ともに和服を着たオーソドックスな作りである。夫役の横手慎太郎は声がよく通り、妻役の名嘉友美(シンクロ少女)は昨夏のミナモザ公演『エモーショナルレイバー』のエンジェル役とは別人のようなナチュラルメイク、これもきっちりした造形で、文学座や青年座など、新劇系劇団の若手公演と見まごうほど、丁寧で行儀のよい舞台である。『紙風船』は、今年1月に新国立劇場の公演をみたが、やはり実際に若い俳優が演じる舞台のほうがしっくりくる。

 『芋虫』をはさんで、2バージョンめの『かみふうせん』には驚いた。若夫婦はTシャツにスウェットで、しかも夫婦の力関係ががらりと変わっている。話す台詞は変更ないのに、『紙風船』にはこういう読み方、作り方も可能なのだと驚くばかり。前者が結婚1年めの中流家庭の夫婦の倦怠を上品に描いたものであるのに対し、後者は都会で孤立したひきこもり風の夫婦が、愛欲と暴力の果てに陥った地獄とでも言おうか。終幕、隣家の子どもが紙風船を投げ込んでくる。夫婦はそれと戯れるのだが、夫の紙風船の突き方をみて、「だめよ、そんな風に力を入れちゃ」という妻の台詞が全然違う意味で発せられるのだ。ぞっとするようなエロス。

 超変則的な演出によって、『紙風船』はまったく違う味わいの作品になったわけだが、それでもオリジナルの品格は損なわれず、俳優は両方のバージョンを生き生きと演じており、純和食を食べにいって、予想外の創作料理を楽しんだような印象である。たとえば奥村拓が読み解くチェーホフやイプセン、久保田万太郎などはどんなものになるのだろうか。
 オクムラ宅。演劇欲を掻き立てられるカンパニーがまたひとつ出現した。

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