因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

平成中村座 壽初春大歌舞伎 夜の部

2012-01-10 | 舞台

*公式サイトはこちら 隅田公園内仮設劇場 26日まで
 書きためてしまった記事をこれからさくさく更新してまいります。
 年明けはたいてい浅草公会堂の新春歌舞伎に行くのだが、今年はエイヤ!と決心して、平成中村座で芝居開き、遅ればせながらようやく中村座初お目見えとなった。右手にスカイツリーを眺めながら徒歩10分あまり、人通りも少なくひっそりして、芝居小屋までの道のりを楽しむにはいささかさびしいのが残念だ。

 しかしこちらから尋ねてもいないのに浅草駅前で突然道を教えてくださったおじいさまのおっしゃる通りだった。仮設劇場に近づくや、たくさんの幟、スタッフさんの明るい声がにぎやかに迎えてくれる。江戸の芝居小屋ふうのつくりは入口前が狭く、履き物を脱ぎ履きがちょいとめんどうだが、考えてみれば昔はみな草履や下駄で、ひょいと脱ぐことができたのだなと考え直す。
 足元はカーペット敷きであたたかく、椅子下のスペースもじゅうぶんあり、ゆったりとした気分に。靴を脱いでお芝居見物というのは、あんがい贅沢なことなのだ。

 お手洗いはやや特殊だ。靴を履かずに列に並び、女性スタッフのきびきびした誘導に従って進む。スリッパのある個室が「空き」の目印。仮設劇場の仮設トイレであるから鍵がかかりにくかったり、スリッパがないのに(つまり使用中)気づかずドアを開ける方もあり(汗)多少混乱はするが、さまざまに考慮して列を作る目印のテープなど、誘導の工夫が凝らされていることがわかる。

 

 とにかく客席と舞台が近い!最後列の席だったが、オペラグラスもほとんど使わなかった。天井に吊り下げられた中村座の提灯がゆっくりと上がって開幕。
 最初の演目は初春興行で上演するのが吉例で、それが幕末まで続いたという「曽我対面」、勘三郎、橋之助の揃いぶみ、つづいて七之助が主要人物七役を早替わりで円実『お染の七役』となる。

 これまで早替わりは何度かみたけれども、客席からみると引田天功なみのマジック、魔法としか思われないくらい鮮やかである。カウントしてみるとほとんどが10秒から15秒である。どこをどうやったらあれができるのか。まったくわからない(笑)。

 来月から中村勘太郎の六代目中村勘九郎襲名披露がはじまる。昨年からお練りや祝賀会などが華やかに行われているが、襲名の決意を語る兄の勘太郎のうしろにいる七之助のことも気になっていた。
 恋に狂う少女から悪態の似合う年増まで鮮やかに演じわけ、最後は舞台に手をついて「本日はこれぎり」と挨拶する七之助の堂々とした役者ぶりに胸が熱くなる。勘三郎あっての勘太郎・七之助きょうだいだが、七之助がいてこその父であり、兄であろう。

 前述のように客席と舞台が近く、役者の体温や息づかいがじかに伝わって、小屋ぜんたいが熱くなるような空間である。歌舞伎を知識や教養よりも、もっと日常感覚に近い雰囲気で楽しめる平成中村座の試みは素晴らしい。出演する役者はもちろんのこと、内外のスタッフの情熱が感じられる。願わくは、木戸銭ももっと生活感覚に近い設定を!

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 因幡屋の1月は | トップ | シス・カンパニー公演『寿歌』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事