因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

日本演出家協会若手演出家コンクール2012『青鬼』

2013-03-06 | 舞台

 公式サイトはこちら 下北沢「劇」小劇場 10日まで
 二日めの今夜は、劇団印象/鈴木アツト作・演出『青鬼』(1,2,3,4 5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16
 今回の公演で実に4度めの上演になる『青鬼』、自分は4度ともみる機会が与えられた。そのわりに「これで◎度めだ」と反芻したことがない。ましてや飽きてしまって、「またか」と思ったこともない。そしてみるたびにどんどん好きになる。『青鬼』は不思議な作品なのだ。

 正直にいうと2007年秋の初演と2009年春の再演について、自分はあまり明確な印象をもっておらず、2012年9月韓国公演を控えての再再演になってようやく、「もしかするとこれは」とぞくぞくするような感覚をもつにいたった。今回のコンクール版は、再再演の80分の舞台をさらに60分に改訂したものである。しかし短縮されたとの印象はまったくなく、いや実はこれまでの上演とどこがどのように違うのか、自分にはもうほとんどわからないのである。
 これは本作が上演ごとに新鮮で刺激的であるかということとともに、自分の観劇姿勢に問題があることの証左でもあるのだが。

 これまでみた鈴木アツトの作品のなかで、自分がもっとも心を動かされたのは2010年春の『匂衣』である。「いったい鈴木さんに何が起こったのか」と思うくらいの変容であり、進化であった。その前の段階に『青鬼』があったことを改めて考えるのである。

 はじめて劇団印象の公演に訪れたとき(1)、客席に満ちていた「鈴木くん、がんばって」的な雰囲気を懐かしく思いだす。彼自身の人柄でもあろうし、それが作品にも反映されていて、非常に感じのいい公演だった。これはまさに天が彼に与えた賜物なのか、経験を積むなかで勝ち得たものであるかはわからない。しかし「感じがいい」というのは大変重要なことであり、なくすことなく持ち続けてほしいのである。

 好ましい雰囲気の舞台から、だんだん痛みや苦み、激しさが感じられるようになってきた。それは自作以外の作品の演出をするとき、いっそう際立つ(1,2)。
 劇作家鈴木アツトはこれからも変容し、進化してゆくだろう。

 2時間で仕込み、1時間の上演のあと速効で撤収するという本コンクールの流れ。小屋入りしてじゅうぶんなリハーサルをする時間もなく、ゲネプロか場当たり稽古のどちらかを選択せねばならないというのは、本コンクールに必然のものなのだろうか。よりよい環境と条件でぞんぶんに腕を奮ってほしいが、タイトな状況をいかに克服するかも含めて「演出家コンクール」なのだろうか。いや、それにしても。

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