因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団掘出者第6回公演『誰』

2009-02-15 | 舞台
*田川啓介作・演出 公式サイトはこちら サンモールスタジオ 22日まで
 四角い劇場の隅に舞台空間があり、客席がそこを挟むような形になっている。学校の教室か部室だろうか、中途半端な大きさの長机と椅子が6脚。これまでみた舞台(1,2)と同じく、公演チラシや舞台装置から話の内容がほとんど読めない作りだ。初日のせいもあって、客席にも張りつめた空気が漂う。これから何が始まるのか、自分はそれを受け止めることができるだろうか。昨年初めて出会った劇団掘出者の舞台は、今の自分にとってわくわくするような楽しさと同時に、得体の知れない何かに対する警戒心、緊張感も抱かせるのだった。
 やはりここは大学の構内にあるサークルの部室らしい。何のサークルか。最初に登場した2人のうち、1人(澤田慎司)はそこのメンバーのようだが、もう1人(板橋駿谷)は違うらしい。2人は友達のようだが、そうでもなさそうで、次々に部室にやってくる学生たち(亀田梨紗、村松健、篠崎大悟、八ツ橋健一郎、寺本綾乃)の様子も少しずつおかしい。前作『ハート』で描かれた傷つきやすい人々の姿が、さらにエスカレートして極度に神経質で、ちょっとしたことで攻撃的になったり、奇妙な行動をしたり、お芝居のストーリーとしてというより、登場する大学生たちの心象がまるで読めない。後半になって大澤夏美が登場し、「やっと分別をわきまえたまともな大人が出てきたわ」と思ったが、やはりこの人も変だったし、工藤洋輔演じる守衛のおじさんもふざけているのか病んでいるのかわからない。

 自分たちの学生時代に比べて、今の若者たちの友達づきあいや恋愛、家族関係も変容しているのだろう。もっと複雑微妙になったようで淡白だったり、衝突を避けているようで取り返しのつかない断絶になったり。本作の若者たちの会話を聞いていると、これが現実の彼らの姿なのか、さまざまなサンプルをもとに作者があくまでも作品として立体化したものなのか判断できない。現実だとしたら心が薄ら寒くなるし、フィクションとしても、こうした舞台を作る田川さん、あなたの心が心配です。余計なお世話ならいいのだけど。 
 劇団掘出者は、これからどのような方向へ進んでいくのだろう?楽しみでもあり、不安でもある。現実に心を病む人は多く、想像もつかない事件も頻発する。材料には事欠かない。しかしそこから何を舞台で描こうとするか。劇作家としての力量と良心が問われ、求められるだろう。客席の自分は賢しらな進言や取り越し苦労はせず、心を広く穏やかに今後の創作活動を見続けたい。

 
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