*黒川陽子の「アップルパイな人々/手のかかる子供/彼女たち」の3作品を連続上演 演出は村上秀樹 公式サイトはこちら SPACE雑遊 26日13時の回もあり (1,2,3,4,5)。
黒川陽子の作品は、9月の出会ったら企画プロデュース『ガチゲキ!!~シェイクスピアでガチバトル~』で特別審査員賞を受賞したクロカワタナカ&Co『ロミオ的な人とジュリエット』(演出は田中圭介)が記憶に新しい。2007年、審査員の全員一致で第13回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した「ハルメリ」(優秀新人戯曲賞2008に収録/ブロンズ新社)は未見の未読。
「アップルパイな人々」早くに両親を亡くした兄と妹。相手の口真似をするうちにその人の人格が乗りうつったかのようになる癖がある。妹が兄に恋人を紹介した。ふたりの性癖に驚い恋人は、デザートのアップルパイも食べずに逃げてしまう。
「手のかかる子供」自殺した青年。天上で奇妙な男性と出会う。なぜ彼は自分のことをこんなによく知っているのか。
「彼女たち」春の日。大学を卒業したばかりの女性が美容院にカットをしにきた。担当した美容師と話すうちに、自分たちの彼氏が同一人物ではないかと疑いはじめる。
舞台中央に木製の椅子が3脚、いびつな形に積み上げられている。出演俳優はト書きを読む人も含めて3~4人。
これほど客席がわきたつリーディング公演は、はじめてではないだろうか。
抱腹絶倒とはこのことだ。とにかくおもしろい!
「アップルパイな人々」のト書き、「妹、捌ける」でこんなに笑えるとは。
物語の設定は荒唐無稽なところもあるが、不自然だとかありえないと感じさせないほど台詞術(というのか)がすばらしく巧みで、テンポがよい。軽い受けこたえのひとことにも、それを話す俳優と聴く観客のりょうほうへの効果や配慮が隅ずみにまで張りめぐらされている。
出演俳優もリーディング公演であることがもったいないと思わせるほど緊張感みなぎる熱演をみせ、小さな劇場は大いに盛り上がった。
黒川作品の特徴は筆の勢いが強く確かな上に、決して悪のりをせず上品であるところだ。
2本めの「手のかかる子供」は、うっかりするとコントになってしまうが、これでもかと続く男性ふたりのやりとりが、ほどよいところでしんみりと納められている。
また客席が大うけする場合、往々にして俳優の演技が暴走しがちになることがあるが、リーディングという形式が、それをうまく食い止めているとも考えられる。
今回の3作品をリーディングでみたことは大変な幸運であった。出会いの機会が与えられたことに感謝したい。もし戯曲から入ったとしたら、「早く上演をみたい」とつんのめるように読み込んだだろう。
そして本式の上演をみる機会が訪れたとき、今夜の楽しさをある面では忘れず、ある面では思い切って潔く捨てることも大切だと、いまから自分を戒めている。
戯曲は劇作家に書かれたときに生まれ、俳優に声に出して読まれて観客がそれをみるときに、再び産声をあげる。戯曲という宝物の誕生に、これから1回でも多く立ち会いたいと願うものである。
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