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7月の演劇集団円公演『ワーニャ伯父さん』(台本・演出を内藤裕子が担った)の開幕前のことだ。折込に入っていた今回の『かっぽれ!~夏~』の公演チラシをみたお客さまのひとりが、「あれ、ヤマケンさんは出ないの?」とつぶやいておられたのである。円、グリフラりょうほうを熱心にご覧になっている方とお見受けした。
「ヤマケンさん」とは演劇集団円のベテラン俳優・山崎健二、グリフラの『かっぽれ!』シリーズでは、ずっと今今亭東吉師匠を演じている。最新作の公演チラシにお名前がないのは、ほぼ同じ時期に開幕する円公演『夏ノ方舟』に出演されるためである。
そうなのだ。グリフラの宝ともいえる『かっぽれ!』最新作の最大の話題であり、同時に最大の難関は、今今亭東吉師匠が登場しないことなのである。
舞台はこれまでと同じく一門ゆかりの温泉旅館「松野や」だ。季節は夏、ここで開かれる若手の勉強会にやってくる一門に、師匠の娘夫婦、旅館の社長、おかみ、専務のおなじみに加え、今回はなぞの男たちや親子たちも登場しての大騒動だ。
これまで中野のテアトルBONBONでみていたグリフラが、一気にスペースが2倍以上になろうか、東池袋のあうるすぽっとに登場した。これは昨年の『ふきげんなマリアのきげん』が池袋演劇祭で大賞を受賞したご祝儀公演なのである。新しい空間、そしてもしかしたらこれが初見の新しいお客さまに、『かっぽれ!』はどんな舞台になるのか?
考えてみると、ヤマケンさん演じる東吉師匠はたいへん不思議というか、微妙なキャラのお方である。登場しただけで威風あたりをはらうような堂々たる師匠ではなく、しかし弟子たちからは絶対的な存在として尊敬され、かつ愛されている。娘のなつみとはぎくしゃくしていて、そこが弱みでもあり、可愛いところでもある。本作恒例カーテンコールのかっぽれ踊りでは師匠の振りがいちばんあぶなっかしく、しかもご挨拶のときに、「あたしは人と違う振りをするのが好きなのです」とお茶目ぶりを発揮する。
もっともこれは師匠に限ったことではなく、本作はおおぜいが出たり入ったりをひっきりなしに行うため、劇中の出番も多からず少なからず、この場面ではこの人がたっぷりしゃべり、しかしそのつぎにはあの人が心情を吐露し、劇中落語の場面ではこの人が意外な配役に・・・という具合である。なので師匠不在の舞台に「大黒柱がいない」といった喪失感というよりも、逆に「いない人物をどのように扱うのか」に興味がわき、「ほんとうなら出ないはずのヤマケンさんを、何らかのかたちで強引にひっぱりだすのではないか」と妄想さえ生まれるのである。
この期待や妄想に対して、じっさいの舞台がどのようであったかの記述は控えるとして、別の舞台の出演が先に決まっていていたしかたなくこうなったのか、それとも敢えて「出ない」ことを前提の劇作になったのか、そのあたりの事情はまったくわからない。しかし『かっぽれ!』の劇世界は、いつもあちらたてばこちらたたずの八方ふさがりの大混乱が、最後にはどうにかなってゆく様相がとても好ましく、「今回もきっと何とかなるだろう」と安心してみていられる。
オリジナルの人物を前作よりさらに活かし、そこに新しい人物を加えるのは劇作のむずかしさでもあり、楽しさでもあるだろう。人物が増えればそれだけ台詞や場面も増えてくる。劇中に落語の一幕があるのはこれまでどおりで、作品のパターンを丁寧に踏まえつつ、最後は大団円にみちびく。
率直にいって、話の運びやまとめかたは若干強引であり、無理感もある。しかしそのようなあれこれを吹き飛ばすくらい、相変わらずの吉太さんの前説、無骨なせん吉兄さん、俺様キャラの東助をみるのは懐かしく、前作までずっと大人しかった前座の小吉があに弟子に対してずいぶん思いきったことを言ったり、前回見習いになったばかりだった石川さんは、立ち振る舞いもずっとしっかりしてきた・・・と気がつけば知り合いのように舞台に同化しそうになり、『かっぽれ!』の魅力は今回も健在である。
ずっとみていたい、またみたい。どうしてもそう思ってしまう。今回の夏版は、明確に「これがファイナル」とは謳っていない。もしかすると師匠復活の続編の可能性ゼロとは言いきれまい。またみんなに会えるのならうれしいかぎりだ。しかしこのあたりの見極めは慎重に行う必要があるだろう。
また今回のあうるすぽっと公演の運営について、若干問題があるだろう。このサイズの劇場で「全席自由席」ということはめずらしい。入場整理券、番号札もない。なんとなく並んだ順に入場するのである。自分の知り合いはついさっきまで指定席だと思い込んでいたし、広い劇場であるからたっぷり席はあるにしても、やはり前よりのセンターが良席であるから、できればそこをゲットしたい。全席自由席がどういう行動を必要とするのか、作り手がわがわからないはずはないと思うが、「劇場へはお早めに」ということだけでは、来場者への情報としてはふじゅうぶんであろう。せめて番号札を配布してはどうだろうか。さまざまな事情があって今回の運営方法になったのだろうとは思うが、ぜひ一考をお願いしたい。
明日8日の12時の回にかぎり、第1作の『かっぽれ!』が上演される。これにはヤマケンさんは出演される・・・はずですよね、グリフラさん。いや、もしかするとまた何かのトラブルで、「いま鹿児島にいる」だの「師匠は勉強会に来られない!」となるような予感もして、それもおもしろいのではないかと妄想が膨らんでくるのである。
本番中にコメントの返信をいただき、またお仕事を増やしてしまって、たいへんに恐縮しております。
もっと早くブログ記事を挙げるか、初日拝見したあとに直接申し上げるべきでした。
すみません。
いまは日曜の18時すぎ、『かっぽれ!~夏~』千秋楽の舞台が終わって、
ロビーにはたくさんのお客さまの笑顔が溢れていることと想像します。
楽しい舞台をありがとうございました。
またお目にかかる日を楽しみにしております。
無事今日の公演も終わりまして、残すは日曜日の「かっぽれ!」再演と16時からの「かっぽれ!夏」です
制作の至らぬ点は、もう少し改善していきたいと思ってはおります
整理券については、早速明日(もう今日ですね)対応出来るよう努力いたします!
ひとりでも多くの方に楽しんでいただける作品を目指して今後も頑張りたいと思っております
またお目にかかれますように!
ご来場、本当にありがとうございました!