*丸尾丸一郎作 菜月チョビ演出 池袋シアターグリーンBOX in THEATER 22日まで。公式サイトはこちら。
池袋は不案内で、迷いながらやっと劇場に着く。舞台は北海道、丹頂鶴が棲息する湖畔に住む兄弟と、その周辺の人々が登場する。チラシには「考えてみれば、生まれてこのかた僕はこのことばかりにこだわっている気がするのだ。」とある。「このこと」とはずばりタイトルの「僕を愛ちて。」である。自分は弟(オレノグラフィティ)のように両親から愛されていないと思い込む兄(丸尾丸一郎)は、「愛して」ではなく、幼児語のように「愛ちて」と言い続ける。母が湖で殺されたとき、父は不在。そのかわりのように兄は千鶴子(菜月チョビ)という少女を拾ってくる。劇団の座長であり、演出もこなす菜月は男優たちに交じるとほんとうに小さい。千鶴子は少々頭が弱い感じで、兄にこき使われ、暴力をふるわれて次第に顔の痣が増えていく様子が痛々しいのに、それがどんどん魅力的に見えてしまう。自分を拾ってくれた男に見返りを求めず尽くすところは、鹿殺し版「鶴の恩返し」のようでもあり、弟を中心としたロックバンドがメジャーデビューを目指すあたりはライブハウスの雰囲気。菜月がボーカルで、これが人が変わったかのように重量感のある見事な歌いっぷり。「僕を愛ちて」のリフレインがおなかの底にずんずん響く。
男優の肌の露出や下ネタはもっと抑制してもいいと思うし、ストーリーはもう少し刈り込んだほうがと感じたが、まるで「義経千本桜」の狐忠信が真っ赤になったような山本聡司には恐ろしいまでの迫力があり、老ゲイとなった父親の歌う「ラブ・イズ・オーヴァー」の場面では、ピアノのシンプルな伴奏がしみじみとした哀切を醸し出す。また兄が住む小屋の壁が左右に分かれたり、ラストは鶴になって飛び立つ千鶴子が天井から吊るされたりと、「気合いの入った手作り感覚」とでもいうのか、ぼんやりしているとぶっとばされそうな気迫に満ちている。
カーテンコールの挨拶で菜月より「放送日を勘違いして、BSで劇団のことが紹介されている番組を見られなかった。録画された方がいらしたら是非お知らせください」との呼びかけがあり、「それは何とかしてあげなくては」と反射的に思ってしまった。自分も録画してないのだが。今夜が初見の観客にたった2時間でそう思わせてしまう一生懸命さ(先週みたハイリンド公演とはまた違う色の)がとてもいい。
帰り道もまた迷ってしまい、池袋の町をうろうろしながら菜月チョビの「僕を愛ちて」の歌声が頭の中をぐるぐる回っていた。
池袋は不案内で、迷いながらやっと劇場に着く。舞台は北海道、丹頂鶴が棲息する湖畔に住む兄弟と、その周辺の人々が登場する。チラシには「考えてみれば、生まれてこのかた僕はこのことばかりにこだわっている気がするのだ。」とある。「このこと」とはずばりタイトルの「僕を愛ちて。」である。自分は弟(オレノグラフィティ)のように両親から愛されていないと思い込む兄(丸尾丸一郎)は、「愛して」ではなく、幼児語のように「愛ちて」と言い続ける。母が湖で殺されたとき、父は不在。そのかわりのように兄は千鶴子(菜月チョビ)という少女を拾ってくる。劇団の座長であり、演出もこなす菜月は男優たちに交じるとほんとうに小さい。千鶴子は少々頭が弱い感じで、兄にこき使われ、暴力をふるわれて次第に顔の痣が増えていく様子が痛々しいのに、それがどんどん魅力的に見えてしまう。自分を拾ってくれた男に見返りを求めず尽くすところは、鹿殺し版「鶴の恩返し」のようでもあり、弟を中心としたロックバンドがメジャーデビューを目指すあたりはライブハウスの雰囲気。菜月がボーカルで、これが人が変わったかのように重量感のある見事な歌いっぷり。「僕を愛ちて」のリフレインがおなかの底にずんずん響く。
男優の肌の露出や下ネタはもっと抑制してもいいと思うし、ストーリーはもう少し刈り込んだほうがと感じたが、まるで「義経千本桜」の狐忠信が真っ赤になったような山本聡司には恐ろしいまでの迫力があり、老ゲイとなった父親の歌う「ラブ・イズ・オーヴァー」の場面では、ピアノのシンプルな伴奏がしみじみとした哀切を醸し出す。また兄が住む小屋の壁が左右に分かれたり、ラストは鶴になって飛び立つ千鶴子が天井から吊るされたりと、「気合いの入った手作り感覚」とでもいうのか、ぼんやりしているとぶっとばされそうな気迫に満ちている。
カーテンコールの挨拶で菜月より「放送日を勘違いして、BSで劇団のことが紹介されている番組を見られなかった。録画された方がいらしたら是非お知らせください」との呼びかけがあり、「それは何とかしてあげなくては」と反射的に思ってしまった。自分も録画してないのだが。今夜が初見の観客にたった2時間でそう思わせてしまう一生懸命さ(先週みたハイリンド公演とはまた違う色の)がとてもいい。
帰り道もまた迷ってしまい、池袋の町をうろうろしながら菜月チョビの「僕を愛ちて」の歌声が頭の中をぐるぐる回っていた。