因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ハイリンドvol.13『エキスポ』

2012-11-03 | 舞台

*中島淳彦作 高橋正徳演出 公式サイトはこちら 日暮里d-倉庫 11日まで(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12) 
 本作は2006年春に加藤健一事務所の公演をみたことがある(そのときの記事)。じゅうぶんに楽しんだのだが、作品じたいの魅力をしっかり受けとめるにはいたらなかった。したがって13回めを迎えるハイリンドが取り組む作品が『エキスポ』と知って、実は少しもの足りなく思ったのであった。今日の舞台をみて、これが自分の思い込みであり、作者をはじめ作り手の方々に対して非常に失礼なことをしたと反省しきりなのである。

 1970年、大阪では万博(エキスポ)が賑々しく開催されている。
 宮崎のある町で、ひとりの女性が急死した。最後のことばは、テレビで万博の様子をみながら、「父ちゃん、人類の進歩と調和げな」。定食屋と連れ込み旅館を切り盛りした働き者の母を偲んで訪れる珍客たちが、まさかの騒動を巻き起こす。通夜から告別式が終わるまでのひと晩の物語だ。

            

 内容からすれば『別れの朝まで』とか、『母を送る日』でもよかったはず。しかし『エキスポ』なのである。話題にはなりはしても、どこか遠い場所で騒々しく行われていて直接の関わりはないイメージの万博。それを「万博」まんまではなく、さらにふわふわと軽やかで、手ごたえがいまひとつはっきりしない「エキスポ」としたところに、劇作家中島淳彦のセンスが感じられる。

 日暮里d-倉庫は舞台の横幅がせまいけれども、天井が高く、密度のしっかりした劇空間である。それをうまく使った演出が生きた。さらにラストシーンでは、それまで掛けられていた鯨幕が落とされ、家族が万博会場をさ迷い歩く。骨壷を首から下げた父親が「ひさ子、これが人類の進歩と調和だ」と叫ぶすがたには鬼気迫るものがあった。うっかりすると平凡な悲喜こもごも、ドタバタのホームドラマに収まるところを、最後の最後になって、「温かな家庭劇」に留まらず、もの悲しく苦みの残る、複雑な味わいに仕上げたのである。 

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