因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ミームの心臓プロデュース【focus.神話】

2013-05-05 | 舞台

 公式サイトはこちら 王子小劇場 8日まで
 気鋭の学生劇団ハイブリッド・ハイジ座1)、ミームの心臓1,2)、四次元ボックス1,2)が王子小劇場に結集、「神話」をテーマに競演する。前売が好調で完売日が続出、はやばやと追加公演が決まるほどの盛況だ。観劇は追加公演の11時の回、そのあと15時、19時とつづく怒涛の3公演日である。
 開演30分まえに受付開始。前回のお客さんが退出するなか受付を済ませ、15分まえまで劇場のそとで待つ。出口の歩道に人が増えてきて賑々しく、となりの薬局で歯ぶらしを買ったとき、青汁をすすめてくださった年配の薬剤師さんが、この光景を不思議そうに眺めている・・・

 客席中央に白い通路があり、おそらく俳優もそこを出入りするのであろう。
 上演は以下の順で行われた。
1、ハイブリッドハイジ座 天野峻作・演出『皮にパンク』
2、ミームの心臓 酒井一途作 岩渕幸弘(思出横丁)演出『東の地で』
3、四次元ボックス 菊地史恩作・演出『cicada』
 劇の本編はいずれも1時間前後、10分弱の休憩をはさみながら一気に3本が上演される。

 

 3本のなかでは、ハイブリッドハイジ座『皮にパンク』にもっとも強い印象をもった。
 殺し屋をしている母と娘がいて、娘はある暗殺を失敗したことから銃が打てなくなっている・・・という話がひとつあって、40歳にして初潮を迎えたことを医師に宣告された男性が妻に知られてしまった・・・という話、殺し屋の娘が通う高校に父親が海賊をしている男子(美少女が演じる)がいて、ああ、その町で今年のハンサムリーダーを選ぶイベントがあって・・・などなど複数の話がぶつかりあいながら進行する。
 ハイジ座は今回が2度めの観劇だ。前回の困惑と疲労が嘘のように、場面ごとの見せ場、台詞のやりとりなど、おもしろいくらいスコンスコン入ってきて楽しめたのは、作り手のテンポが、みるほうにとっても受け入れやすいものであったためではないかと思われる。
 劇の構成や話の流れの記憶は早くもあいまいで、何をもってテーマの神話であるのかも、正直なところよくわからない。40歳で初潮の男性のはなしが前半に出たきりだった?のは少々残念であるし、殺し屋娘が通う高校の先生も、もう少し出番を期待した。反面、ここがどこにどのようにつながるのか判然としない場面もあったようで、もっと凝縮した作品になる可能性があるのではないか。

 しかしながら、起承転結のストーリー性のある話、造形のはっきりした人物像、客席に確実に伝わってくる対話を求める傾向の強い自分が感じることと、ハイジ座の作り手が目指す方向はおそらく相当にちがっており、かんたんに「ここはおもしろかった。あそこはこうしてほしい」と言えるものではない。

 ハイジ座を楽しめた理由が、おそらくあとの2本を残念ながらあまり楽しめなった理由に重なるのではないかと思われる。非常に単純な表現になるのは力いっぱいにがんばった方々に対して心苦しいが、『東の地で』と『cicada』は、見ていて辛かった。
 おもしろおかしくつくれば見て楽しいということではなく、シリアスな内容だから辛いのでもない。劇の内容やつくりの表面的なことではなく、前述のように作り手のテンポ、リズムがこちらにしっくりくるかこないかである。
 それは俳優の台詞や動きの強度という演出面の問題や、戯曲に無駄や無理がなく、劇作家が自分の思いをじゅうぶんに書きこんでいるかということである。饒舌でも冗長でもない、これが劇として必要な台詞であり、劇の時間であり、俳優の演技であると、ちゃんと納得できるものであるか、なのだ。

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