*ウジェーヌ・イヨネスコ作 大久保輝臣翻訳 斎藤歩演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 7日で終了
札幌座の前身であるTPS(シアタープロジェクトさっぽろ)の東京公演『アンダンテ・カンタービレ』や『ワーニャ伯父さん』などをみたのはずいぶん前のことで、札幌座として新しいスタートを切った舞台をみるのは今夜がはじめてとなった。TPS時代の2009年に初演された本作が好評を得て、2012年に続き、再再演の運びとなった。とくに今回は北海道内7カ所に東京公演が加わったツアーである。
いずれの時代にかどこかの王国。その国の王が「この芝居の終わりに死ぬ」と宣告され、そのとおりになるという1時間20分である。物語の冒頭から「これは芝居である」とことわっているつくりで、観客はどこに視点を置けばよいのかわからないまま、「死にたくない」とじたばたする王をめぐる2人の王妃の争い、外科医や家政婦、衛兵たちの大騒動をあっけにとられてみるばかり。第一王妃と外科医が王の暗殺を目論んだようでもあるが、わざわざ「2時間後にあなたは死にます」と告げるのも妙であるし、芝居というものは登場人物たちの思惑に関わりなく、こうと決まった話だからそのようになるのだという、一種の演劇的寓話であるとも考えられる。
原作の芯はきちんと押さえながら、遊びも多い。第一王妃マルグリットが第二王妃マリーを魔法で固め?、指示どおりに動かす場面(うまく書けないなあ)がある。「前一歩、はいそこで親孝行になって」の指令に、マリー役の女優さんは、「お父さん久しぶり」と老親の肩を揉むしぐさをしながら、「お父さん、あたし演劇やめる」と言う。これが親孝行であると。こういう悪ふざけっぷり、大好きだなあ。
このようにげらげらと笑いながら、しかし王は確実に衰えていく。どの場面のどのせりふのあたりでどの程度という演技プランがあるのか、斎藤の王の造形は、「気がつけばほんとうに死にそうになり、死んでしまう」ことをみごとにやってのけた。いったい演出をしながらみずからがここまで大変そうな主役を演じるというのは、どのように稽古を行うのだろう。
第一王妃役の橋口幸絵は劇団千年王國、外科医役の弦巻啓太は弦巻楽団の座長をつとめ、作・演出を担っている。自分で劇団を主宰しつつ、札幌座のディレクターとして俳優としてツアーに加わることがどれほどのことか想像もできないが、並々ならぬ情熱と労苦と、しかしそれらを吹き飛ばす手ごたえもあると察する。札幌座のツアーは来年1年おやすみをとり、新しい舞台の創作に力を蓄積する年とする由。
東京に身を置いて、さまざまな公演をただ待つこの身が非常に怠惰であると感じられるのは、今回の舞台が暴発、暴走気味のエネルギーに満ちていたためであろう。あっけにとられながら、しかし元気がでてくる不思議な舞台である。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます