高倉健さんが出たNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』が土曜日に放送されました。テレビをもたない貧乏英語塾長の身を案じて、うれしいことに、当英語塾INDECのある会員が録画したBlu-ray Discを持ってきてくれました。
それを昨夜当英語塾の教室兼映画館であるGump Theatreの120インチの大画面で見ました。鳥肌に次ぐ鳥肌、涙に次ぐ涙。鼻水をすすり上げながら、健さんの一挙手一投足を見させてもらいました。口惜しいけれど、NHKはやります。とりあえず、心に残った部分を記録しておきましょう。
映画『あなたへ』に出演中の健さんを追いかけたドキュメンタリーなのですが、最初から次の画面に脳天をやられます。そこには、「高倉健という生き方」という文字が中央に黒字に白抜きで現れ、海岸に立つサングラスをかけた健さんを遠くから映すのです。かっこいいじゃありませんか。
しかも、オープニングのナレーションがいい。
日本中の心を揺さぶってきたひとりの俳優がいる。
今年、81歳。
演じてきたのは、まっすぐに生きる男。
寡黙にして、圧倒的な存在感。
だが、その素顔は厚いヴェールに包まれてきた。
映画俳優、高倉健。
去年秋に始まった6年ぶりの映画撮影。
高倉が異例の密着取材を受け入れた。
飾らない素顔。知られざる覚悟。
俳優生活56年。時代を超える伝説。
望んだわけではなかった俳優の仕事。
自分に課した生き方がある。孤独を貫く信念。
映画俳優、高倉健。その知られざる素顔に、密着。
その背後に『鉄道員』、『幸福の黄色いハンカチ』、『南極物語』、『昭和残侠伝 死んで貰います』、『八甲田山』、『海峡』、『ホタル』の名場面が流れ、合間合間に貴重な健さんが見られる。最高です。
笑ったのは、ビートたけしさんの留守電に、「たけちゃん、勝新太郎です。会いたいよー」と録音している場面。ひょうきんな爺さんでもあります。
『あなたへ』のフッテージも使われますが、さすがに画質はMPEG-2の720pですから、109シネマズ木場で見た4Kプロジェクターによる緻密な映像とは大差です。でも、うれしくなります。しかも、その場面だけは、1.85:1のアスペクト比で見せてくれるのですから、NHKもやります。また、見たくなってきました。
長崎県平戸の富永写真館の前の撮影風景も泣かせます。少女時代の洋子の写真を見て、「ありがとう」と言うだけの場面です。画面には、「一度きりを、生きる」という文字。撮影を終えた健さんの言葉は、「まいった」。泣いてました、健さんは。泣きます、こちらも。
そして、健さん自身のコメントです。
自分の中で感じられないことってできないよね。
心の話だからね。やっぱり自然によぎっていくものじゃないのかね。
よぎらないんだけどよぎっているように見せるっていうのがお芝居なのかもしれないけど、
映画は違うっていう気がするね。
映画はやっぱりそうじゃない。
本当によぎらないと。
僕は同じことは何回もやれって言われたら絶対できないよね。
たぶん最高のものは1回だって黒澤監督でもおっしゃってたって言うから、
僕も絶対そうだと思いますね。
うれしいのは、ホテル・パシフィック内のバーバー・サトーの中にある健さんの個室を見せてくれたこと。その本棚には、『梅へ』と『あ・うん』の台本があり、『キネマ旬報』の1983年8月上旬号No.866、1985年8月上旬号No.916、1989年10月下旬号No.1020が置かれています。
他にベージュのバラクーダのスイングトップに、カーキのジャケット、こげ茶の革ジャン、ウェザビーのライフル・ケース。そして、ファックス機に、健さんの写真がついたかなり以前のカレンダー。入ってみたいですね、この部屋。
健さんがスタッフにあげたというダウン・ベストはAIGLE製の黒のものでした。左胸に赤字で「Ken Takakura」と刺繍が入っています。欲しいです。くれないものでしょうか。
健さんの朝食は、シリアルとヨーグルト。体重は、67kg。しかも、ウェストは何十年も同じ。ウォーキングを欠かさない。そのうえで、特製マウスピースを愛用して、噛むことで脳を活性させているとか。何たる節制ぶりでしょう。
ベージュの革ケースに入れられた台本まで見せてくれます。あの東北の水を運ぶ少年の写真は写されませんが、語られます。その代わりに、台本の最後に貼られている詩と短歌が映されます。詩です。
肥料 相田みつを
あのときの あの苦しみも
あのときの あの悲しみも
みんな肥料になったんだなあ
自分が自分になるための
短歌は、会津八一のものです。
あめつちに われひとりゐて たつごとき
このさびしさを きみは ほほゑむ
しかも、山下達郎の「希望という名の光」を毎朝聴いているとか。その歌詞を印字した紙も台本ケースには入っています。
健さんが愛読する木村 久迩典の『男としての人生 山本周五郎のヒーローたち』も映されます。健さんは、『樅ノ木は残った』の次の箇所に赤線を引いています。そして、健さんが朗読してくれます。
火を放たれたら手で揉み消そう、
石を投げられたら体で受けよう、
斬られたら傷の手当をするだけ、
--どんな場合にもかれらの挑戦に応じてはならない、
ある限りの力で耐え忍び、耐え抜くのだ
一転して、綾瀬はるかとの雑談も、面白いです。
綾瀬 耳が、耳が大きいですね。
健さん だれ?すいません。
綾瀬 福耳。
健さん どうにもならなくて。
綾瀬 福耳。
健さん いやあ、絶対福じゃないよ。不幸の連続だもん、僕なんか。訊いてよ、しんさんに。この2、30年、あいつが何でも知ってるからね。
健さん みんなおいしいことばっかり言ってくるでしょう。
綾瀬 いや。
健さん だんだん売れてくれば来るほど言ってくるよ。
綾瀬 そうですか?
健さん うん。売れるか売れないかだもん、まず。あなたが幸せか幸せじゃないかより、売れるか売れないかだよ。
綾瀬 そうか。
健さん それは、もう事実。
綾瀬 でも仕事は人生じゃないですよね。人生?人生のひとつ?
健さん ひとつでしょうね。難しい質問するね。えらいね。
綾瀬 うふふふふふ。えへへへへ。それについて、たまに考えます。
健さん セットでしゃべろう。
綾瀬は、本当に美しいです。このドキュメンタリーでも、この間見た試写会の現場でも。時分の花。さてさて、健さんのメッセージが通じたのでしょうか。
健さんは、肉親の葬式に出ないことに代表されるプロとしての意地についても語ります。
いま考えたらね、肉親の葬式、だれも行ってませんよ。
それは結構やっぱり自分に課している。俺は絶対それで撮影中止にしてもらったことはないよ、という。
僕の中では、それはね、プライドですね。
言ったら当然中止にしますと、3日間4日間とかってなったと思うけど、一度も僕は言ったことない。
一回もないですね。それは僕はどこかで、俺はプロだぞって思ってますよ。
捨ててるもんだと思いますよ。別にそれは捨てなくったってやろうと思えばできるんだもんね。
余貴美子との濱崎食堂での撮影の合間の会話も胸に迫ります。
余 (洋子からの絵手紙を健さんに見せながら)これだけなんて悲しいですね。
健さん そうなんですよ。
余 ねえ。
健さん まだいまでも理解できないんですよ、どうしてなのか。
「久しぶりにきれいな海ば見た」の場面の大滝秀治とのやり取りも見せてくれます。テストですでに気持ちが入った健さんは、本番を撮り終えると、泣いているのです、白いハンカチを目に当てて。映画では見せてくれない場面です。そして、大滝に「お疲れ様でした。ありがとうございました」と深く頭を下げる。すると、大滝が「ありがとう、ありがとう」と応える。凄い絵です。
健さんのコメントです。
大滝さんのセリフで、あの一見静かで平和そうに見える港で暮らしている漁民の人たちの悲しみと喜びというかね。
いつも美しい海じゃないんですよということを言っているわけでしょ。
もう私は長い間生きてきていっぱい見てきたということだよね。
もう、僕はやっぱり突き刺さりましたよ。あれで英二が、ばっと心が、よし俺も共犯者になってもいいと思ったね。
僕は、ばっともろに感じた。こーっていう言い方とこの気迫で、こんなにセリフが変わってしまうんだという。
「久しぶりに美しい海を見た」なんてつまんねえセリフ書きやがるなとかって思ってたんだけど、
ああ変わってしまうというのはね。
やっぱし、びっくりしたね、僕。
テーマですよね、この。
門司港での撮影終了時の健さんの挨拶は、「お疲れさま!」だけ。このひとらしい、シンプルな感動の表し方なのでしょう。
そして、今年3月の東宝で行われた完成試写会のあとです。健さんは、「とってもやりたいね」の力強い言葉。ファンはうれしくなります。待ってます、健さん。
そして、いつもの「プロフェッショナルとは?」の質問。健さんの答えです。
難しいねえ…。生業だと思いますけどね。プロフェッショナルというのは、生業だと思いますね。以上です。
エンディングは、薬師丸ひろ子たちとの映像が使われます。とても見ごたえのあるドキュメンタリーでした。完全保存版となりました。
今晩10時からは、インタビュースペシャルも放送されます。ファンの皆さん、必見です。
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