医療データは、重要です。
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食道がん手術前に歯磨き指導…医療データが減らす合併症
2019年10月21日09時00分
世界トップ棋士を破った囲碁のAI(人工知能)を開発した英国の会社は、医療に攻め込もうと、AIに学ばせる医療データの収集に躍起だという。日本でも遅まきながら、適切な医療の提供や従業員の健康管理に役立てるため、エビデンス(証拠)を蓄え、データを活用する動きが広がってきた。
「初めは『手術を受けに来たのに何でこんなことせなならんの』と訴えていた患者さんが、歯磨きを頑張っているのを見ると、うれしくなりますね」
大阪警察病院(大阪市天王寺区)の歯科衛生士、皆木佐予さんがいう。皆木さんは「周術期管理チーム」の一員だ。医師や看護師、理学療法士、管理栄養士らが連携して手術の前から患者の検査や問診、指導にあたる。
チームが実証した大きな成果は、食道がんの手術を受ける患者に入院前から口腔(こうくう)ケアを継続的に実施・指導したところ、手術後の合併症を抑えられるようになったことだ。その結果、平均在院日数の中央値を、それまでの68日から28日に短縮できた=チャート左。
きっかけは2013年。麻酔科の医師、北貴志さんのもとに、副院長から相談が寄せられた。「食道がんの手術を受けた患者さんは、肺炎などの合併症で入院日数が100日を超える人も珍しくない。何とか改善できないか」
食道がんの手術では、近くを通る喉頭蓋(こうとうがい)を動かす神経の損傷が避けられない場合があり、手術後、のみ込みにくくなったり、唾液(だえき)などが誤って気道に入り吐き出せなかったりする場合がある。また、口の中の衛生状態が悪かったり、免疫力が低下していたりすると、気道から肺に入った細菌が原因で誤嚥(ごえん)性肺炎になることもある。
北さんらは先行する大学病院を見学するなどして活動をスタート。取り組みで得られたデータは、診療情報管理士の資格を持つスタッフにも見てもらった。「手術に伴うリスクにあらかじめ対応することができ、患者さんにもメリットを実感してもらっている。入院の短縮化でベッドの回転がよくなり病院経営にもプラスと聞き、チームの存在意義も高まった」と北さん。
健康診断のデータを活用する会社もある。物流最大手の日本通運では、グループ会社も含めた約5万5千人の従業員の特定健診や診療報酬明細書(レセプト)のデータを分析。高血糖の人にかかる医療費が健保組合の平均より高いことがわかった。
10年度から検査値が異常なのに通院していない人への受診勧奨を強化。最終的には対象の400人超全員の受診に結びつき、血糖値が改善した人の割合も増えていった=チャート右。
何度受診を促しても、らちが明かないケースに備え、産業医に健診結果報告書を添えた医療機関への紹介状を書いてもらい、本人へ送付したことは所属する事業所の上司にも伝えた。それでも「仕事が忙しい」などを理由に後回しにしてしまう人には、保健指導員と呼ばれる全国約200人の保健師らが直接面談して受診を勧める2方向からの作戦で臨んだ。
高血糖を放置すれば心筋梗塞(こうそく)などを引き起こし、ドライバーが運転中に事故を起こすケースにつながりかねない。「強力な受診勧奨は周りで見ている従業員にも伝わり、健康意識の高まりにつながっている」と日通健保の古川康博さんは話す。14年度からは心臓疾患や脳卒中などのリスクをはらむ高血圧の人にも同じ取り組みを始めた。
愛知県刈谷市の自動車部品大手、デンソーとデンソー健保は、健診データからは必ずしも見えてこない「出社しているものの何らかの不調で業務効率が落ちている」、いわゆる「プレゼンティーズム」の状態にある従業員にも目を配る。
15年から、健診の問診などで不眠を訴え、睡眠時無呼吸症候群が疑われる従業員が希望すれば、簡易検査器を貸し出し、睡眠の質などを確認してもらっている。「会社や健保が持つデータを活用してプレゼンティーズムに影響を与える要因を分析できないか検討中」(広報・渉外部)という。
日本にもレセプト情報を集めた国のデータベースがあるが、使い勝手が悪いとされ、データ活用は道半ば。米カリフォルニア大ロサンゼルス校で医療政策を研究する津川友介さんは「米国では国益につながるとして、医療データの整備にも多く財源を投じている。日本でも、個人情報に配慮したうえで個々の取り組みを統合するなどしてエビデンスの質を高め、研究者に活用・分析してもらい、真に国民に『価値』のある成果を、スピード感をもって政策に反映できるようにしていくべきだ」と指摘する。(鈴木淑子)
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国ぐるみで医療データの充実を図る日が一日も早く来ることを望みます。
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