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日本のスターの涙は、もっと貴重だ

2006年11月16日 18時55分19秒 | 映画ニュース
朝日新聞とは多くの面で対立することが多いゴウ先生ですが、何でもかんでも反対しているわけではありません。次のような論考を書かれると、よい記事だと認めます。

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〈表現の秋〉スクリーンで号泣する男たち 朝日新聞

2006年11月15日

 泣いている。男たちがスクリーンで号泣している。鼻をすすりながら、あるいは鼻水の流れるままに。

 公開中の映画だけでも、「ただ、君を愛してる」の玉木宏と「虹の女神」の市原隼人が、失った女性を思って泣き、「手紙」では玉山鉄二が弟との再会に号泣している。弟役の山田孝之もTBS系のドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」で泣き、映画「電車男」では、秋葉原の中心で愛を叫んで泣いていた。

 号泣演技はまるで、いまどきのイケメン俳優にとって必須種目のようだ。でも日本映画の主役たち、昔からこんなに泣いていたのだろうか。

 映画評論家の佐藤忠男さんは「戦後間もなくの日本映画も泣く男は多かった」と振り返る。ただし当時はまだ、泣かない主役と泣く主役の役割分担が明快な、歌舞伎の影響が強かった。

 「黒澤明作品の三船敏郎は泣かず、木下恵介作品の佐田啓二は泣く、といった具合です。ところが高度成長が始まり、イケイケどんどんのムードのなかで泣いてなんかいられなくなった。耐えに耐える姿が日本のヒーローとしてもてはやされていったのです」

 三船や勝新太郎、石原裕次郎や高倉健はめったに泣かない。泣くとしても「背中で泣く」。そんな主役たちが時代の気分を表していた。

 「いまの泣きブームは、男の強がりなんてのがはやらない時代のせいでしょうが、直接には韓流の影響でしょうね」と佐藤さんはいう。

 韓国ドラマを見続けてきたライターの安部裕子さんは「感情を表に出さないという日本の男の美学はわかりにくい。そんな思いが韓流ブームの根底にあった」と分析する。

 安部さんは初め、喜怒哀楽すべてに直接的な作りに違和感もあった。しかし、ヒロインに感情移入するうち、気持ち良くなってきた。

 「女性に多かれ少なかれあるお姫様願望を満たしてくれる。愛しているとはっきり口に出す。ヒロインのために恥ずかしげもなく号泣までしてくれる。韓国の一流の俳優は本当に感情表現がうまい」

 こうして韓流ブームは「不器用な夫」を持つような世代を中心に根付いてしまった。

 「20~30代の女性にしてみれば、韓流はちょっと、おばさんくさい。でも心持ちは同じ。そんな層が、号泣してくれる男が出る日本映画に流れているのではないですか」と安部さんは見ている。

 東邦大医学部の有田秀穂教授(生理学)は、かねて数分間の号泣は一晩寝るよりも人をリラックスさせ、ストレス解消になると主張してきた。

 「男の涙を抑圧し続けていた日本社会がおかしかった。泣くことは悪いことではない。号泣する男を見て、もらい泣きするのはストレス解消にはもってこい」と話す。

 しかし、観客が泣くのと、登場人物が泣くのとでは次元が違いはしないか。

 今秋、泣かせる日本映画で最大のヒットとなりそうな「涙(なだ)そうそう」。「涙がとめどなく流れる」という題名とは裏腹に実は、男が泣かない作品だ。主演の妻夫木聡は妹との別れの際などに「鼻をつまんで泣かない」ようにする。鼻水は出ず、号泣にもならない。

 土井裕泰監督は「鼻つまみは脚本家のアイデアですが、僕も古典的な兄妹物語を描くにあたり、感情を表に出さず、つつしみ深く秘めていくという少し前の日本人の姿を表したい、と。その一つが泣くのをこらえるという行為だったのです」と話す。

 「ビューティフルライフ」など多くのテレビドラマを手がけてきた土井さんは、何でも説明しすぎる風潮に、かねて危機感を抱いてきた。たとえばお笑い番組の「会場の笑い声」、バラエティー番組の「巨大なテロップ」など。

 「セリフも、行間を演技で読ませるよりも、どんどん説明調になっている。見ている人の想像力を信じないような表現をしていていいのか、という気がします」

 「号泣する男」も、観客の涙を誘うためだけの装置なのか。有田教授は話す。

 「涙を誘うには泣かせるプロセスが重要であって、必ずしも涙は必要ではない。それは、観客の人生経験次第。深い人生を歩んでいる人は涙がなくとも過程だけで泣くし、いくら号泣されても簡単には泣かない」

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ゴウ先生も、いまの日本映画の主役は泣きすぎると思います。高倉健命のゴウ先生としては、泣かない健さんがこらえきれずに泣き出す次の映画を男の涙の最高作品と位置づけます。

遥かなる山の呼び声

松竹

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この映画のラストで、列車で刑務所に送られる健さんに倍賞千恵子とハナ肇がやってきて、その姿を見て健さんがこらえきれずに泣き出し、そっと倍賞が「黄色いハンカチ」を渡すシーンは、ゴウ先生、見るたびに泣いてしまいます。(「黄色いハンカチ」は、もちろん山田洋次・高倉健・倍賞千恵子トリオの前作『幸福の黄色いハンカチ』と呼応しているのは言うまでもありません。)

劇中、「男だろ。泣くんじゃない」と倍賞の息子役の吉岡秀隆に言う場面があるのですが、最後に男・高倉が泣いてしまうのです。山田洋次渾身の演出だとゴウ先生は評価しております。

かくも男の涙は貴重でした。安易に泣かれると興ざめします。韓流ブームが過ぎ去ろうとしている(過ぎ去った?)いま、やはり日本人としての演技を考えるべきです。

未見の『涙そうそう』で妻夫木が泣かないという話を聞いて、ゴウ先生、見に行こうかと思いだしました。

簡単に泣くな、スターよ。お願いします。

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