一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

石破少数内閣に3本の対野党パイプ、25年度予算案の成立へ試される構想力

2024-12-13 15:24:07 | 政治

 10月27日の衆院選で少数与党に転落した石破茂政権が12日、2024年度補正予算案の衆院通過を果たした。石破首相は最初の関門を通過した形だが、注目するべきは「103万円の壁」問題で協議した国民民主党だけでなく、日本維新の会や立憲民主党とも新たなパイプを造り、さらにハードルが高くなる第二の関門である2025年度予算案の成立に向け、政治環境が少しずつ変化してきたことだ。

 3本の政策協議ルートは、国民民主党とだけの1本のルートよりも政府・与党に選択の幅を与え、政治的に孤立して不信任案を提出されるリスクを抑える機能を持たせたことになる。この新たな動きの中心にいたのが森山裕・自民党幹事長と見られている。25年度予算案の成立に向けた道筋はまだ見えてこないものの、25年度税制改正大綱や予算案編成の着地に至るプロセスで、自民・公明両党と他の3党との距離感やその先の連携の有無が浮かび上がってくる可能性がある。

 

 <国民民主と合意、補正予算案が衆院通過 目立つ森山幹事長の存在感>

 今回の補正予算案の衆院通過までの過程をみると、3つの特異な政治的合意があった。1つ目は、「103万円の壁」の引き上げにかかる財源問題で与党と国民民主党との溝が深まり、国民民主党が補正予算案への反対の可能性をちらつかせる中、幹事長レベルで急転直下、合意文書を作成して国民民主党の補正予算案賛成を決めたことだ。

 「178万円を目指して」「暫定税率の廃止」「2025年からの実施」という文言を盛り込みつつ、前の2つには時期を盛り込まなかった「玉虫色の決着」は、森山幹事長の決断だったとされる。万が一、補正予算案が衆院で否決されれば重大な政局問題に発展したに違いなく、森山幹事長の政治的な駆け引きは水際だった巧妙さを見せた。

 

 <自民と立民に新たなパイプ、注目される森山氏と安住氏の人間関係>

 12日付読売新聞朝刊は、国民民主党を合意へと促したのは、自民党と立憲民主党との補正予算をめぐる妥協の動きだったと伝えた。これが2つ目の出来事だ。

 連立与党は立憲民主党の要求を飲む形で能登半島の復旧・復興支援のため、予備費から1000億円を充てる修正案を11日にまとめ、立憲民主党の安住淳・予算委員長は12日の補正予算案採決を決定。12日の補正予算案採決の段階では、この修正案に立憲民主党も賛成した。

 予算委では補正予算案の政府原案に与党と国民民主党、日本維新の会が賛成して可決され、本会議では修正案に一本化されて採決されたが、立憲民主党は緊急性の低い基金への支出が多いことなどを理由に反対した。補正予算案の審議が始まって修正されて可決されたのは初めてで、この点は立憲民主党も野党優位の国会の成果と評価している。

 ここでも森山氏と安住氏の国会対策委員会で形成された人脈が生かされたと国内メディアは報道している。自民党と立憲民主党との間に確かなパイプが形成されたことの証と言えるだろう。

 

 <維新も補正予算案に賛成、教育無償化で自公と協議会設置へ>

 3つ目は、日本維新の会が前原誠共同代表の下で、教育無償化をテーマに与党と政調会長レベルで協議会を設置することで合意し、日本維新の会も補正予算案に賛成したことだ。

 あまりの急展開のため、日本維新の会ではこの方針転換に反発する声が表面化するというハレーションまで発生した。

 25年度予算案の成立を目指す際に、教育の無償化をめぐって例えば高校の授業料無償化などに関し、一定の合意が与党と日本維新の会で形成されれば、予算編成の過程でその合意内容が盛り込まれるという展開もありえる。

 

 <本予算案成立へ、自民党にとって増えたカード>

 もし、25年度予算案をめぐって与党と日本維新の会の合意が先行すれば、国民民主党が高いボールを投げてきても妥協を強いられることがなくなるという道が開ける。 

 そのような可能性があることを内外に示すだけでも、国民民主党に対するけん制力が増すことにもつながるという計算が自民党に働いたとみることもできるだろう。

 

 <立民との調整、国会での修正協議が主戦場か>

 立憲民主党は予算案の国会提出前の事前協議のかたちでの合意形成方式を強く批判しているため、与党と同党との合意形成は、補正予算案と同様に国会での修正という形をとることになると予想される。

 仮に水面下での自民党と立憲民主党との間での折衝で、特定の予算項目での減額や増額で折り合いが付きそうになれば、大規模な予算案の修正が国会の場に姿を現す可能性もあると筆者は予想する。

 その場合の主要なプレーヤーは森山氏と安住氏になり、最終的な決断は石破首相と立憲民主党の野田佳彦代表が下す展開が予想される。ただ、本予算に賛成することは、事実上、与党の政治路線を認めることにもなるため、立憲民主党内で異論が噴出することも想定される。

 

 <予算案めぐる駆け引き、その後の展開につながる可能性>

 このように3本のパイプができたことは、石破内閣の選択肢の幅を広げることにつながるだけでなく、その先の政権の枠組み変更や政界の地殻変動に連動する大きなパワーに発展する可能性を秘めている。

 だが、3本のパイプが同時に目詰まりし、最終的に予算案が否決されるというリスクも相応に存在する。その場合は内閣総辞職というドラスティックな結末が待ち構えていることもありえる。

 同時に進行する政治資金規正法の再改正問題と合わせ、自民、公明両党と野党各党の「構想力」の真価も問われることになる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人手不足と経常減益計画、日銀短観が示す明暗交錯の未来

2024-12-13 12:00:14 | 経済

 日銀が13日に発表した12月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)ばかりに注目が集まり、内外メディアのヘッドラインもそこに集中するが、実は今回の短観の見どころはそこではない。人手不足の状況を判断する雇用人員判断と経常利益計画だ。前者は1980年代後半のバブル期の水準に接近するほど不足感が強く、来年の春闘での賃上げ率が今年並みになる可能性を高める要因となる一方、後者は昨年の12月短観のデータよりも弱く、前年比マイナスで着地する可能性を示唆している。

 来年1月20日に就任するトランプ次期米大統領の関税政策の全容が判明すれば、海外での製商品需給判断が悪化して経常利益計画やDIを下押しする懸念もあり、12月短観における大企業・製造業DIの小幅改善を素直に好感するのは楽観的に過ぎると指摘したい。

 

 <小売と宿泊・飲食サービスのDI悪化、消費変調の前兆か>

 市場が発表直後に反応する大企業・製造業DIはプラス14と9月の同13から1ポイント改善し、悪化を見込んでいた市場予想の同12を上回った。大企業・非製造業はプラス33と2期ぶりに小幅悪化した。

 これを業種別にみると、少し違った風景が見えてくる。9月との変化幅がマイナス15と最も悪化方向に振れたのが小売で、その次に宿泊・飲食サービスのマイナス13が続いた。モノとサービスの両面で個人消費の変調を示唆するデータではないかと筆者は懸念する。

 

 <深刻な人手不足、来年春闘の今年並み賃上げに好材料>

 一方、今後の日銀の利上げパスを予想する上で重要な来年の賃上げについて、重要な情報を提供するのが雇用人員判断だ。大企業・全産業でマイナス28、全規模・全産業でマイナス36と9月短観から横ばいながら、不足感の水準自体は1980年代後半のバブル期に迫るところまで来ており、成長の足を引っ張る供給制約の大きな要因として政府・日銀も認識しているもようだ。

 一部では、来年春卒業の新卒者をめぐる「奪い合い」が激化しているとも言われており、企業の欲しい優秀な人材の不足感は一段と深刻化しているとの声も産業界から漏れている。

 今回の短観のデータもそうした見方を裏付ける存在とも言え、今年並みの賃上げ幅を期待している政府・日銀にとっては「好材料」と評価できるだろう。

 

 <経常利益は減益計画に>

 だが、気になるデータもある。その1つが経常利益計画だ。2024年度の全規模・全産業では前年度比マイナス3.1%、修正率2.8%だった。前年12月短観の前年度比プラス4.1%、修正率6.8%と比較すると見劣りする。

 ここに出てきているトレンドで着地するなら、経常利益ベースで減益となり、今年並みの賃上げを実現する際に経営側から難色を示される理由の1つとして提起される可能性がある。

 ただ、財務省が発表している法人企業統計では、企業の利益剰余金は598兆円と過去最高を記録しており、賃上げ原資は潤沢に存在していると筆者は考える。

 

 <海外での製商品需給判断、供給過剰方向にシフト その先にあるトランプ関税のリスク>

 経常利益が減益計画になっている背景には、海外経済の動向に懸念が生じていることがあると指摘したい。12月短観における製造業の海外での製商品需給判断(需要超過ー供給超過)はマイナス12となり、9月から2ポイント供給超過方向にシフトした。中国や欧州などの景気減速の影響を受けたとみられるが、今後はさらに悪化する懸念がある。

 いわゆるトランプ関税の発動による輸出への新たな打撃の発生だ。特に1月20日の大統領就任と同時にメキシコからの輸入品に25%の関税がかかった場合、メキシコで生産して米国に輸出している日系メーカーの77万台は、輸出停止の危険性に直面する。

 海外での製商品需給判断が供給超過方向にシフトすれば、経常利益の着地点も大幅に悪化方向にずれ込み、いずれDIの悪化につながることになるだろう。

 

 今回の12月短観のデータは、上記の点以外では企業の設備投資や物価見通しが堅調で、日銀見通しに対してオントラック(想定通り)と指摘できる。

 だが、12月短観の調査時点ですでに経常利益が減益計画になっているというのは、企業経営者のセンサーが内外経済の先行きに何らかの「障害」を察知した結果と言えるだろう。手放しで楽観的な展望を語るのは「リスキー」と筆者は感じる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

18%に低下した12月利上げ織り込み、日銀総裁会見後に1月の期待後退なら円安進展へ

2024-12-12 13:55:53 | 経済

 12月の日銀利上げへの期待感が急速に後退し、ドル/円が152円台へとドル高・円安方向にシフトしている。仮に19日に日銀が政策維持を決め、来年1月の利上げの可能性を質問された植田和男総裁が会見で来年の春闘の結果を見極めたいと述べたら、1月利上げの機運も後退し、円安方向への市場のパワーが強まると予想する。日銀の政策見極めの期間が長期化するのかどうか、19日の植田総裁の会見は内外の注目を集めそうだ。

 

 <12月利上げ織り込み後退>

 市場の12月利上げに対する思惑は、足元で急速に後退している。12日には4.5ベーシスポイント(bp)と18%まで低下した。時事通信が今月4日、日銀内では「拙速な利上げは避けるべきだとの見方が、ここにきて広がっている」と報道し、一時は17bp(68%)まで織り込まれていた12月利上げの思惑が一気に6.5bp(26%)まで急降下した。

 その後、11日にブルームバーグ、12日にロイターが相次いで利上げを急ぐ必要がないとの見方が日銀内で広がっていると伝え、市場の見方は「12月利上げ見送り」で固まった。

 

 <152円後半まで進む円安、利上げ決断なら株安の予想も>

 ただ、その一方でドル/円はじりじりとドル高・円安が進み、12日午後3時過ぎには一時152.70円前後まで水準が切り上がった。

 ブルームバーグは11日の記事の中で「今後公表されるデータや為替相場の動向次第では、来週の金融政策決定会合での実施の可能性もある」とも指摘しており、週明けにかけて円安が一段と進んだ場合は一転して利上げの決断をする余地があるとの見方も併記している。

 一部の市場関係者は、12月の織り込みが20%を切った現状で利上げを実施すれば、市場が株安などで反応するため、利上げは難しいとの見方を示している。

 他方、別の関係者は想定外の12月利上げがあったとしても、日経平均株価の下落は3万8000円台で止まって大波乱にはならないとみている。

 

 <重要な「次の利上げ」への期待感、1月は76%織り込み>

 筆者は、日銀が12月利上げを見送った場合に重要なのは「次の利上げ」への期待感へのコントロールではないかとみている。

 市場の12月利上げの織り込みは大幅に低下したが、1月は19bp(76%)と織り込みが進んでいる。12月は見送りだが「1月は利上げする」という市場参加者が多数であるということだ。

 

 <「春闘見たい」など3月利上げ連想させれば、円安進展の可能性>

 もし、19日の会見の段階で1月利上げの可能性を後退させる発言を繰り返した場合、円安進展の加速が予想されると考える。

 現状では、3月利上げの織り込みが24bp(96%)となっており、その後の織り込みは12月末になっても47bpと進んでいない。つまり、1月の織り込みが大幅に低下するとその先の織り込み曲線も急速に低下し、ドル高・円安の加速に弾みを付けかねないことになるということだ。

 例えば、次の利上げのタイミングに関して会見で質問され、植田総裁が「来年3月の春闘の結果も見たい」と発言すれば、市場は3月利上げのタイミングに着目し、1月利上げの期待感が後退することになると予想する。

 このケースのような会見内容になれば、会見中から円安が急速に進行すると予想する。会見前のドル/円の水準にもよるが、現状程度の152円台なら市場の目は「155円突破の時期」に集まり、政府・日銀のドル売り・円買い介入の実施の可能性なども話題に上るだろう。

 米政権の交代時期に日本政府の「介入実施が難しい」という思惑が浮上すれば、短期的に「160円も視野」という声が浮上することも容易に想像される。

 

 12月の日銀金融政策決定会合でどのような判断が下され、植田総裁から25年の展望について具体的なイメージが示されるのかどうか。内外の市場参加者は、植田総裁の発言の微妙なニュアンスの変化も聞き漏らさないように耳を傾ける予想する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

迫る来るトランプ関税、日米経済・株価はデカップリングへ 来年は政府・日銀に試練も

2024-12-11 12:18:22 | 経済

 2025年の日米株価が最高値を更新するとの予想が、市場で多数を占める勢いとなっている。だが、日本株にはその行方を阻む障害が存在している。それはトランプ次期米大統領が実施を表明している関税の引き上げ(トランプ関税)だ。米経済の「独り勝ち」を促すトランプ関税は、日米経済と日米株価のデカップリング(分断)現象を生み出すだろう。

 この流れはモノの貿易だけでなくマネーの世界でも米国集中を生み、米株高とともにドル高も進行すると予想する。したがって日本にとっては円安が進むことになるが、トランプ関税が日本や第三国からの輸出を阻み、企業収益への貢献は小さく、円安による輸入物価の上昇だけが目立つ展開もありえる。「トランプ2.0」がスタートする2025年1月20日以降、日本の政策当局と国内企業はいきなり正念場を迎えると言っていいだろう。

 

 <25年の日米株価、ともに最高値更新の見方が多数に>

 国内メディアの報道によると、内外の金融機関や調査機関の多くは25年も米株価が最高値を更新すると予想している。S&P500種株価指数でみると、今月6日に記録した6099.97ポイントの最高値を10%程度上回る6500-7000ポイントの水準で25年末を迎えるという予測が多い。

 一方、日本株についても値上げできる環境が整って収益力を高める企業が増えるとの予想が多く、日経平均株価は今年7月11日に記録した4万2224円02銭の最高値を更新し、25年末に4万3000円ー4万6000円で着地するとの強気の見方が目立っている。

 

 <対メキシコ・カナダからの輸出に25%の関税、日本の自動車メーカーに大打撃>

 だが、筆者はこうした日本株に対する強気の見方の前に「トランプ関税」が立ちはだかるとみている。

 まず、トランプ氏は来年1月20日の就任初日に大統領令を発し、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課すと予想される。根拠法は国際緊急経済権限法(IEEPA)になるとの見方が専門家の中で多く、即日実施される公算が大きい。

 11月26日の当欄で指摘したように、日本の自動車メーカー4社は2023年にメキシコから米国に77万台強の自動車を輸出しており、ここに25%の関税が上乗せされると事実上、米国内では価格競争力を失うとみられている。

 また、中国に対する10%の追加関税の適用もIEEPAが根拠法になるとの見方が多い。この場合、一定のタイムラグを伴って日本から中国への輸出が減少する可能性が高まる。特に半導体製造装置などの輸出に影響が出れば、関連する企業の打撃はかなりの規模になる可能性がある。

 

 <対米輸出は年間20兆円、10-20%の関税賦課は死活問題に>

 上記のような初期対応とは別に、トランプ氏は全ての国からの輸入品に一律、10ー20%の関税をかけることも主張してきた。こちらは通商拡大法232条や通商法301条が適用される可能性がある。この場合、関税適用前に調査が義務付けられており、その調査期間に相手国との交渉が行われると予想される。

 この交渉は、トランプ氏が得意とする「ディール」で日米による交渉カードの出し入れの巧拙が、最終的な結果に直結することになる。2023年度の対米貿易をみると、輸出総額は20兆8628億円にのぼる。そうち、自動車が6兆0917億円と全体の29.2%を占め、半導体製造装置を含む一般機械が4兆8895億円(23.4%)と続く。

 日本としては、この上位2分野での関税上乗せを何としても回避しないと、製造業の多くを構成する輸出系企業の収益が大幅に圧迫されることになる。

 

 <トランプ関税が促す日米経済と株価のデカップリング>

 ところが、冒頭で紹介したような多くの日本株の予想には、こうしたトランプ関税の賦課による打撃分がほとんど反映されていない。つまり、トランプ関税が日本経済と国内企業に及ぼす打撃のインパクトに関し、マーケットの具体的な織り込みがあまり進展していないことを意味する、と筆者は指摘したい。

 25年の米経済は確かにトランプ氏の採用する大規模減税やその他の政策効果で成長率が加速すると見込まれる。したがって米株も最高値を更新するとの予想は合理的であると考える。

 しかし、トランプ関税によって米経済のプラス効果が日本経済に波及する経路が切断され、日米間の成長格差が拡大し、日米株価のデカップリングが現実化するリスクが大幅に高まると予想する。

 

 <マネーも米国に一極集中へ、物価高だけが残る円安の進展も>

 以上のことはモノと貿易にとどまらない。米経済の「独り勝ち」を意識したマーケットは、米株などのドル建て資産に集中し、世界の余剰資金が米国に流入する構図が出来上がると筆者は予想する。25年に限っては、米国内でインフレ懸念が再燃しても米国債にも資金が集まり、事前の想定ほどに米長期金利が上昇しない展開も十分に想定される。

 その結果、ドルが買われて対円でもドル高が進むだろう。円安は市場の想定を超えて進みやすくなるが、「トランプ関税」の存在で日本から米国への輸出は数量ベースで減少する可能性が高まり、円安による輸出増の効果が全く出ないことになるだろう。

 そのことは、輸入物価の上昇に伴う国内での物価上昇圧力だけが残るという現象を生み出しかねない。「トランプ関税」は米国のインフレ圧力を刺激するとよく識者から指摘されているが、実は様々なルートを通じて日本のインフレ懸念が刺激されることにもつながる。

 

 <期待される茂木氏の対米交渉責任者への起用>

 このような悪いシナリオが現実化しないよう日本政府は、来年1月20日を待たずに次期米政権スタッフとの事前交渉に入るべきだ。また、日米交渉は省庁をまたぐことになるので、統括する責任者のポストを新設し、そこに政治力の発揮できる大物政治家を起用する必要があると考える。石破茂首相には「苦い薬」かもしれないが、米側からタフネゴシエーターと呼ばれた茂木敏充・前自民党幹事長を対米交渉の責任者に任命するのも1つの方策であると思う。

 日銀の植田和男総裁は、米経済の動向や日本経済への波及に関して高い専門性と見識を持っており、日銀内ではすでに「トランプ2.0」を前提にした各種のシミュレーションが展開されていると予想するが、今後の金融政策の判断にも重大な影響を与える可能性がありそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日米金融政策イベント、市場織り込み変化で円安に 蓄積される155円方向へのパワー

2024-12-10 14:50:21 | 経済

 12月の日米金融政策イベントに対する市場の織り込み度合いの変化が、151円台という足元でのドル高・円安の水準を形成している。市場では米インフレの再燃懸念が強まる気配を見せ、来年の利下げ織り込みが現状から一段と大幅になる環境とはなっていないため、ドル高・円安に傾きやすい地合いとなっている。

 さらに日銀利上げに対するマーケットの織り込み度合いがこのところ急低下しており、12月に金融政策が維持されて直後の会見で植田和男総裁が今後の利上げに関してあいまいな発言をすれば、ドル/円が155円程度までドル高・円安方向に振れるとの声も広がっている。日米金融政策イベントまでに市場の織り込みがどのように変化するのか、11日の11月米消費者物価指数(CPI)や13日の12月日銀短観の結果などに注目が集まりそうだ。

 

 <再燃する米インフレ懸念、来年の米利下げペースに影響>

 12月17-18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げに関し、市場の織り込みは21.5ベーシスポイント(bp)と86%程度に達している。市場は12月の25bpの利下げをほぼ、織り込んだと言っていいだろう。

 ただ、足元のマーケットでは米インフレ懸念が高まる兆しを見せ、9日のNY市場で10年米国債利回り(長期金利)は前日比4.2bp上昇の4.195%に水準を切り上げた。9日の公表されたニューヨーク連銀の11月消費者調査で、1年後の予想インフレ率が3%に上昇したことが材料視された。

 米アトランタ地区連銀が試算している今年第4四半期の国内総生産(GDP NOW)はプラス3.3%と高水準で、強い米景気が物価を押し上げるとの見方が急速に広がりつつある。

 ドル/円の水準を大きく左右する2025年の米連邦準備理事会(FRB)の利下げに関する市場の見方は、25bpの利下げ換算で約2.5回分が織り込まれている。12月のFOMCで公表されるドットチャート(メンバーが予想する政策金利の水準)で市場織り込みと同程度の予想が示されても、足元からさらにドル安・円高に振れる材料と市場が認識することはない、と筆者は予想する。

 

 <大幅に低下した日銀の12月利上げ織り込み、注目される植田総裁会見>

 一方、12月の日銀金融政策決定会合で利上げする可能性について、市場の織り込みは足元で急低下している。日本経済新聞の植田総裁インタビューの記事が掲載された直後は17bp(68%)まで織り込まれていたが、今月4日の時事通信の記事で、日銀内では「拙速な利上げは避けるべきだとの見方が、ここにきて広がっている」と報道されて以降、織り込み度合いは急速に低下。10日の市場では6.5bpと26%まで後退した。

 筆者は、日銀利上げ織り込みの大幅な後退が、足元におけるドル/円の151円台への上昇に大きな影響を与えていると考える。

 今のところ、市場は来年1月の利上げについて17bp(68%)、3月に22bp(88%)という織り込み度合いを示している。

 こうした中で、19日の会見で植田総裁が1月利上げの可能性について、あいまいな発言をした場合、市場が1月利上げの可能性も低下したと受け止めれば、織り込み度合いの曲線が手前でガクンと下がる可能性が高まる。

 米利下げペースがテンポアップする要因が短期的に見当たらない中、日銀利上げの織り込みが短期的に急低下すれば、外為市場では素直にドル買い・円売りが加速し、155円方向に円安が急進展するリスクが高まると予想する。

 

 <市場が注視する11月米CPI、12月日銀短観にも関心>

 いずれにしても日米の金融政策イベントまでの市場の織り込み度合いの変化が、ドル/円の方向性を大きく左右することになる。

 1つ目の注目材料は11月米CPIだ。市場予想は前年比プラス2.7%だが、強めの結果が出れば上記で示したように25年の利下げペースの織り込み幅が小さくなり、ドル買い・円売りの材料になる可能性がある。

 2つ目の材料は日銀短観だ。日銀の中村豊明審議委員が6日の広島市での会見で、注目する指標の1つとして12月日銀短観を挙げて以降、市場では12月利上げの可能性との関連で日銀短観に注目する見方が増えつつある。

 

 <ワイルドカードとして意識すべきウォン急落リスク、日本の補正予算採決の行方も>

 筆者はこの2つのデータとは別に、韓国の政情不安に起因した韓国ウォンの動向や日本の2024年度補正予算案の採決の動向にも注意を払うべきだと考えている。 

 韓国ウォンがこの先、一段と急落して「通貨危機」の様相を示すようなら日本政府・日銀としても何らかの対応を迫られる可能性があり、その際は日銀の金融政策判断にも影響が出る可能性があるからだ。

 また、いわゆる「103万円の壁」の引き上げをめぐり、自民、公明の両党と国民民主党との協議が暗礁に乗り上げ、週内(13日)の衆院での補正予算案採決が先送りされ、補正予算案が衆院で否決される可能性が出てきた場合には、日本でも「政情不安」が取りざたされかねず、そのケースに直面するようなら日銀の「総合判断」の結果にも影響を及ぼす可能性がある、と筆者は予想する。

 いずれにしても、日米金融政策の変更に関する市場の織り込み度合いは、ドル/円の動向に大きな影響を与えることになる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする