この夏のことだ。
わが永遠のアイドル砂子組で一席やってくれとの依頼を受け、無謀にも、役員ほか幹部社員を前にして長広舌をふるったそのあと、同じく登壇したのは新潟県胎内市にある小野組小野社長だった。
小野組は創業明治21年、130年つづく老舗企業だ。
小野さんいわく、「自分はバトンランナー」だという。次代の人がうまくいって、やっとお役御免無罪放免になるのが自らの役割なのだそうだ。
その講話の冒頭、彼が聴取者に投げかけたのは、こんな問いだった。
「100年つづく企業になるためにもっとも大切にしなければならないのはなんでしょうか?次の三つのうちから選んでください」
その三つとは、「顧客」「株主」「従業員」だ。
こう言っちゃあ悪いが、この手の質問を駆使する話がわたしは嫌いだ。
「自分に当てられたらどうしよう」とヒヤヒヤするからだ。小心者の哀しさである。
それに・・これは自らが会社というものをどう考えているか、来し方と行く末における核心をつく質問だ。ドキドキしながら考えてみた。
三つのうち、すぐに脱落したのは「株主」だ。これについては、市場原理主義にどっぷりと浸ってしまったこの御時世では、大いに異論が出るところだろうが、問いには「もっとも」という副詞がついている。わたしの考えではそれは「もっとも」たり得ない。
さて・・・
あとのふたつのうちどちらを選んだらよいか。
有り体に白状すると、これについては少しく悩んだ。
なんとなればわたしは、「わたしたちのお客さんは住民です」を合言葉に、「三方良しの公共事業」の旗振り役としてこの十数年を過ごしてきた張本人だ。「住民が顧客」という前提にたって公共建設工事は行われるべきだと信じている人間だ。
心なしか、ニコッと笑ってわたしを見る講師の目がわたしを試しているかのような気がして冷や汗が出てきた。
しかし、それもいっときのこと。
「やっぱ従業員やろ」
それがわたしの出した結論だった。
すると、そんなわたしの心を見透かしたかのように、目と目が合った講師がふたたびニコッと笑って、誰も指名せず自ら口にした答えは、
「従業員ですよね」
「従業員をたいせつにしない会社は100年つづきません」
そうだよな、絶対にそうだよ、とどちらにしようか悩んだ自分を棚に上げ、「そんな当たり前のことを聞くなよな」ばりの顔を講師に向けたわたし。
半年前のことである。
なにゆえそんな話を思い出したのか。
詳細は他人さまに晒すようなものではないので避けるが、唐突に思い出したわけではない。近ごろ折にふれて、あのときの小野さんの笑顔と言葉がわたしの脳内によみがえってきて、そのたびにわたしはうなずき、こう応えるのだ。
「ですよねー」
と。
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