答えは現場にあり!技術屋日記

還暦過ぎの土木技術者のオジさんが、悪戦苦闘七転八倒で生きる日々の泣き笑いをつづるブログ。

一事が万事

2025年01月28日 | ちょっと考えたこと
北条三代。戦国時代、小田原を拠点とし関東一円を支配した北条氏の治世を指してそう呼ぶが、じつは後北条氏は五代までつづいている。
では何故「三代」なのか。それは、滅亡へのトリガーを引いたとされている四代氏政が暗愚の君主であった(諸説あり)ため、彼以降はカウントせず、初代早雲をはじめ、二代氏綱、三代氏康までをもって栄華を誇った北条氏を呼びあらわして「北条三代」、その四代目のエピソードとして有名なのが「汁かけ飯」、氏政が少年時代の話だ。

ある日の食事中、汁を一度メシにかけて食べた氏政少年。しかし、案に相違し、メシの量に比して汁は少なく、もう一度汁をかけ足した。
それを見た父の氏康。
「毎日食事をしておきながら、メシにかける汁の量も測れんとは、北条家もワシの代で終わりか」
と嘆息したという。

いわゆる、「一事が万事」というやつだ。
ひとつの小さな事柄にあらわれるものは、他の大きな事象の場合にも当てはまる。氏康父さんは、一見すると取るに足らない食事中の行いを見て、「汁かけ飯の量も判断できぬ者に領地経営や家臣団の統率が務まるはずはない」と推量した。

たとえばそれが現代日本ならば、そのような些末なことで少年の未来を決めつけてしまう親がいたら非難轟々、あっちからこっちから切り刻まれてしまうにちがいない。ぼくもまた、たとえばそれがわが孫ならば、「未来ある子にそんな可哀想なことを言ってやるな」と親をたしなめるかもしれない。

失敗を繰り返し、その体験を糧にして成長してゆく、それが人間というものならば、些事をもって大事を推し量るなど、大人としてあるまじき行為だというのが現代日本一般での常識だろう。ぼくもまたそれに同意する。

とはいえ、「一事が万事」ということわざが、すべてにおいて意味を成さないかというと、そうとも言えない。
万事をこなすにおいて必要な力が一事にもあらわれるというのはよくあること。そう、一事には万事に通底するものがあるからこそ、「一事が万事」という言葉が成立する。
「汁かけ飯」という些事に「領地経営」という大事をこなす能力の欠如を喝破した氏康父さんもまた、その習いどおりだったと言えるだろう。

しかし、繰り返すが、若年代の一事をもって万事を評価するべきではない。人は体験から学ぶ生き物、体験から得られた知見を成長の糧とするところは、人が人たる所以であるからだ。

たとえば「汁かけ飯」ひとつとってみても、椀によそった飯の量に応じてそのつど最適な汁の量を判断できる子はまずいない。個によって遅いか早いかのちがいはあっても、どの子でも、体験を繰り返すうちにそれを自らのものとするという、同様の段階を踏むはずだ(この令和の御代に「汁かけ飯」をする子がどれだけいるかは別として)。
往々にして人は、習熟速度の早さや習熟期間の短さを評価の基準とすることが多い。しかし、長いスパンで見た場合には、一概にそうとも言えないのが人間のおもしろさでもある。だとすれば、それをもって将来をどうのこうのと推し量るべきではないだろう。

といっても、いつまでもそれをつづけているとなると、ちょいとばかり事情は変わってくる。そこにはもちろん、育った環境が大きく影響を与えているにちがいない。そのようなムダについて指摘されずに少年時代をすごすと、気づかないまま成長してしまうこともよくあることだ。
一事をもって万事を正しく推量し、その些事が大事に通ずることを教え、言動を修正し、あるべき方向へと導いてやるのも大人の大切な役割ではある。

しかし、究極的には、できるできないは個人の責に帰せられるものだ。すべてを自己責任と断じるつもりはないが、自分の至らなさを親や上司や環境のせいにしてしまう姿勢からは、成長は期待できない。
万事に必要なものが一事にも表出するという理を胸に留めおき、些事だからいいや、という姿勢を排除する。そういった心のもちようが、人間の成長にとって大切なものとなる。

「一事が万事」は、ぼく自身にも、そしてぼくの周辺にも掃いて捨てるほど転がっている。とはいえそれらのすべてを、十把一絡げで「一事が万事」と処理してよいものではないだろう。
他者を推し量るために用いる際には十分な注意が必要。しかし、自らへの戒めとして使うと効果的。これが「一事が万事」というものではないだろうか。

言わずもがなではあるがこれ、けっしてお子様限定の話ではない。
どうかそこんとこヨロシク、なのである。

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